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「……とうとう、お生まれになったか」
しゃがれた声を絞り出し、大神官は喜色を浮かべた。
産婆を除いて立ち入ることのできない産褥の間に、彼がいること自体、この出産がいかに翹望されてきたかを物語っている。
大神官は産婆を押し退けると、胎脂にまみれた王の子を胸に抱き、その面を覗き込んだ。
にわかに開いた左目の、薄い目蓋の奥に翡翠の瞳がちらりと覗く。王と王妃、双方によく似た色だ。
その瞳孔に、国が掲げた紋章の一つが浮かび上がるのを認め、老爺は恭しくこうべを垂れた。
「おお、風の加護……やはり神託の御子であらせられるか。では、こちらの眼には……」
生まれたばかりの王子ヴェルミリオは、大神官の節くれだった二本の指で右の目蓋もこじ開けられ、火がついたように泣き出した。
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