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託宣との齟齬
落ち着かない様子で、執務室を右往左往しているのは、アクアフレールの王フラー四世である。
頑健な両肩に千万の民の命を背負う王も、今宵ばかりはただの人。初めての我が子の誕生を前に、威厳は玉座に置いてきた。
やがて高貴な老爺が、おとないを告げる声が近衛伝いに届けられる。
もったいつけて現れた大神官を、王は抱き寄せんばかりの勢いで迎えた。
「ご苦労であった、フュージャー。わたしの子は……、神託の御子は無事生まれたのであろうな?」
「はい。それは……尊顔たいへん麗しく、陛下のお子らしい旺然たる鋭気に満ち満ちた健やかぶりでございます」
「その口ぶりは、男の子なのだな? おお、ヴェルミリオ……その名を呼べる日が来たのだな!」
王子のために用意していた名を、嬉々と口にする王の傍らで、フュージャーは苦しげに呻く。
「……ええ。それから……優しげで愛らしい王女様も」
「……何だとっ。それでは神託の加護はどちらに? いや、二人ともに現れたか!」
驚きを露わにしながらも、王の顔にはまだ、歓喜が残されていた。
四十に差し掛かっていながら、子供のように輝く翡翠の瞳を、フュージャーは真正面から捉えることができない。ようやくの思いで、重たい口を開いた。
「陛下、どうかお心を穏やかに、お聞きください」
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