託宣との齟齬

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 扉には、国が信仰する水と風の神を模した紋章が刻まれている。  古き伝承では、国に暗雲立ち込めし時、神の子もしくは救国の御子(みこ)とも呼ばれる英雄が現れ、その者はこれらの紋章を瞳に宿す──と云われていた。  ややあって連れてこられた二人の赤子を確かめる前に、王は天に祈りを捧げる。大神官の言が何かの間違いであるとの希望を、まだ捨てられなかった。  なぜなら現王フラー四世は、即位の際に次のように神託を授かったからだ。 『そなたの御代において、風と水の加護を受けた気高き御子が産まれるであろう』と──。  即位から十年、神の子さえいれば永年の憂いも晴らせようと、この日を待ち侘びてきたのだ。  ふと、王は壁の世界地図を振り返り、深く息を吐いた。  王の憂い……この国の暗雲は、地続きの隣国シルミランとの関係にある。  二国は、百余年に渡る冷戦状態にあり、開戦の狼煙がいつ上がろうとも不思議はない緊張状態にあった。  原始は水を争ったものだが、魔導技術が目覚ましい発展を見せる昨今においては、大地を潤す魔力(リュージュ)が争いの種である。  両国とも版図を広げたくて、内心ではうずうずしているのだ。
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