怪事件とオバチャンと

8/10
前へ
/187ページ
次へ
「や、やめといてくれませんか。 あいつ……メンタルが潰れます。 今だって、凄い顔してたんすから」 咄嗟に俺はそう言ったけど、オバチャン先輩はもう方針を決定してしまったらしい。 『えぇい、上官命令が聞けないなんて。 宮廷の庭を二十周ジョギングだけじゃなくて腕立て伏せ百回も追加しようか!』 「いつの時代なんですか! パワハラで訴えますよ?!」 オバチャンはモモの顔を借りて笑った。 だけどその笑顔は……なんというか妖艶というのか完熟しているというのか。 普段にモモがする顔じゃないし、モモからは想像出来ない圧というのか、そういうものをひしひしと感じた。 『……時がきたの。 向き合わなきゃいけない時がね』 彼女が言ったその言葉は、先日に母を亡くした俺には堪えた。 俺は母と向き合うのを避け続けた結果、死別というもうどうしようもない後悔をする羽目になった。 『じゃ、もう今日は遅いからお開きね! さっさと寝ようか』 おぉうマイペースすぎる、このオバチャン先輩霊…… 「モモは明日も、こんな辛い思いをするんですか……」 『何言ってんの! この子、七年前からずっとずっと辛いに決まってんじゃない。 だけど、来たるべき日のためにずっと耐えてきたんだから。 今が踏ん張りどころでしょ』 「……えぇえ……」 なんだろう。 彼女のこの発言で、このオバチャン先輩霊の思考はなにか俺とは全然別の規模というか……見据えているものがそもそも違うのだ、そう思った。 『ほら、早く寝ないと明日に障るよ? 明日はたしか、あんたは野外講習が入ってんじゃなかったっけ? 寝とかないとキツイよ?』 ……お、俺の部屋……ソファが無くて、ベッドはシングルが一つしか無いんです、先輩……!
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加