怪事件とオバチャンと

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俺は自分の布団に遠慮しながらモソモソと入って横になった。 オバチャンはありがたいことに背を向けていてくれた。 ここでモモと目を合わさなくてすんで助かった。 『おやすみ。 明日もよろしくね』 「あーい……」 『返事がなってない!』 「はい!」 めんどくさいなこのオバチャン! と思いつつ、俺は肝心なことに思い当たった。 「……あの、すみません」 『もう寝ましたー。 また明日にね』 意地悪な返答だったけど、俺は構わずに続けた。 「お名前、伺っていいですか。 確認をとりたいです」 俺のその言葉に、オバチャンは首だけをこっちに向けた。 『……アイコ。 英将アイコ。 検索しても多分あんまりヒットしないよ。 あたしが死んだことに関しては箝口令がでてるみたいだからね。 うん、ターちゃんに聞いてみな。 あいつ、「知らん」とか言ったりしたら、はっ倒してやるんだから』 モモと隣り同士で寝てるんだ、うわぁドキドキ、だとかそんな浮ついた気持ちには全然ならなかった。 オバチャンの霊の圧が凄すぎる。 むしろ若干緊張しながら寝た。 俺は元来寝相は悪くない。 俺の習性を自分で褒めたたえたい、などと初めて思った。 ……三時間ほどは寝られたから良しとする。身の回りを整えていたらモモが起きた。 オバチャン……アイコさんはどうやら中に引っ込んだようだった。 夜は自室に入るなり早々に仮眠をとった。 十二時にアラームをセットして起き上がり、モモが来るのを待った。 かわいそうに、昨晩みたく酷い顔をして来るんだろうなぁ。 気持ちとしては迎えに行ってやりたいが、それを実行に移す訳にもいかない。 消灯時間以降にこれといった用も無いのに女性の居住スペースをうろつくとか、俺には出来る芸当じゃない。 モモが来たのは一時前だった。 やっぱり悲壮感が溢れていて、ひどく取り乱していた。 俺の顔を確認するかのようにじっと見たあと、みるみるうちにその顔を崩して、やがて号泣した。 おいおい……アイコさん、やり過ぎだろ……。 そうは思うけれど、だけど仕方ないのだ。 俺は訓練所の野外講習から帰って、夕方の忙しい時分に。 大将とウーさんから、とんでもない話を聞いていた。
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