12人が本棚に入れています
本棚に追加
見渡せば、いつもの自室だった。
ウェスター国の王を守護する戦師に貸与されている、今の私が所属しているところ。 豪華では無いが不備など無い。 普段なら心から寛げる場所だ。
それなのに今は、とんでもない悪夢に魘された直後でたまらなく怖い。 キョロキョロと怯えた小動物のように見回すとデジタル時計が目に入った。 電光表示は午前一時半であることを告げていた。
理不尽と恐怖から逃げられたのは心から良かったと思う。 だけど今からもう一度寝るというのは、先程の続きをみてしまいそうであまりにも恐ろしい。
(……とにかくなにか、あったかい物でも飲んで落ち着こう……)
私はパジャマのままで、少し離れた給湯室まで飲み物を貰いに行くことにした。 住空間であるスペースの廊下は、夜中とはいえ明かりが灯っている。 今はこの明るさがありがたい。 薄暗い廊下ならちょっと二の足を踏んでしまっただろう。
だけど、給湯室には先客がいた。 その彼の銀髪が目に入った途端、私は思わず立ちすくんでしまった。
「おー、どした? 喉でも……」
彼は私を見て言葉を途中で飲み込んだようだ。
「なんか、あったのか」
彼は右手には注いだばかりなのだろう紙コップを持っていた。 左手で私の右腕を掴んできたので、思わず反射的にビクッと震えてしまう。
「あ、悪い……」
「……っ」
彼はすぐに私から手を離したのに、私は何も言えなかった。
……彼がいてくれたから。 彼が私を見つけ出してくれたから、今の私はここにいることが出来て、真っ当に生きることが出来ているのに。 彼にはいくら感謝してもしきれないというのに。
こんな時間にこんな場所で、彼を困らせたくなんてないのに……今はどうしても何も言葉が出て来てくれない。 それどころか代わりに涙が溢れ出てきた。 今いきなりに私が泣いてしまったら、偶然居合わせただけの彼に多大に迷惑をかけてしまうと分かっているのに。
給湯室の近くには休憩所があるのだけど、そこは消灯時間になると入室出来なくなる。 彼は暫し黙っていたけど、やがて少し躊躇いがちにでも私に言ってくれた。
「とりあえず、俺の部屋に来い。 ここじゃ大して話せねえだろ」
夜中にバッタリ鉢合わせしていきなりに泣かれて、さぞ迷惑だろうに。 彼は私に微塵たりとも『めんどくさい』という素振りは見せなかった。
最初のコメントを投稿しよう!