悪夢の始まり

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今回私は、時計を見なかったように思う。 今が深夜の一時であることに気がついたのは、昨夜にもお世話になった彼の部屋のクッションに座ってからだった。 人目につくとかそういう類いのことは一切考えもせずに、私は男性の居住スペースまでの廊下をパジャマのままで突っ走った。 彼の部屋の扉をノックするまでもなく、勢いよく開け放った。 ……彼の安否が、たまらなく不安だった。 悪夢といえ、どことなく私の過去にリンクしていることは事実だ。 この悪夢自体がなにかの警鐘のように思えて仕方なかった。 昨夜と同じくデスクチェアに座っていた彼は、深夜に突然に飛び込んできた私にしばらくは何も言わなかった。 多少驚いてはいたようだけど、それを口にはしなかった。 「……とりあえず、ドアを閉めてくれ。 入れよ」 立ちすくんでいた私はそう言われてドアを閉めたけど、なんとも彼に抱きついていきたいような衝動に駆られた。 それでも泣け無しの理性なのか、体は動かなかった。 昨夜と同じクッションを渡される。 その際彼は、私の頭を撫でるように軽くポンポンと叩いた。 彼に少し触れられただけで、私の中の緊張の糸が切れた。 ついには激しく泣き出してしまう私に、彼は辛抱強くつきあってくれた。 体感として五分くらいだと思うけど、もっと長かったのかもしれない。 「……お前をここ(ウェスター城)に連れてきた時に言ったろ。 覚えてるよな」 涙目で彼を見上げると、彼の真剣なその表情が……彼にここに連れられることになった時に見た彼と重なった。 「『お前のことは必ず俺が守る』ってな。 一人で気負わなくたって、いいんだ。 そのためのパートナーなんだから」 そんなことを言ってくれるものだから、余計に涙が止まらなくなるんだけど……とはちょっと言えない。 彼に縋りたい、もっと近くで慰めて欲しい、そんな思いを必死で飲み込むのに、五分は……短いのか長いのか。 私にはちょっと分からなかった。
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