破壊衝動

3/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 今の話は聞いていない。  二人だけの秘密、と寝言のように雄司は言う。  指を絡ませ、背中から抱きつく。よほどショックだったのか少し悠木の鼓動が早く、耳元で「気にするな。消えやしないさ」と微笑みながら言うも雄司の目は殺気に満ちていた。  夜に聞いた単なる寝言を心に受けた悠木は、その日から親と話すのが気まずくなったか。とても静かな子になった。 「おはよう、結木。今日テストでしょ、頑張ってね」  毎日語りかけてくる母親の言葉にすら反応せず、父親の問いかけにも口を開かない。それをソファーに座りながら嬉しそうに見る雄司。悲しそうな顔をする親に思わず、新聞を読むふりして声を消して笑う。  悠木が悲しそうな顔で家を出た時、壊れかけた家族の隙間を更に傷つけるように「嘘つき」と雄司が意地悪な声で言う。 「まさかまさかのお父さんってその人と不倫してオレの母さん捨てたわけ? じゃあ、オレも同じことしてあげようか」  嗤う雄司の急変した様子に「やっぱりのね」と呟く母親。 「あぁ、誰かさんのせいで人生壊れて虐待やらなんやら。盗みとかも平気でやってたからな。それに――オレの実の母親は猟奇殺人犯でもある。ほら、子供を誘拐してバラバラにしてプレゼントボックスに詰めてクリスマスに届けたって言う……。聞いたことない? あれ、誰かさんに向けてやったらしいんだよ。、オレに『子供を連れてきて』ってさ。ホント嫌になる。詰めるのは母親でも殺してたのは“オレ”だから」  新聞を閉じ、投げ捨てた時には“狂気”を少し感じた父親は警察に電話をかけようとテーブルにあったスマホに手を伸ばす動きに隠し持っていたナイフを投げた。  軽く手首を切り、母親の悲鳴が室内に響く。父親は手首を圧迫し止血をするも「それ、毒塗ってあるからよく考えないと死ぬよ」とニコっと笑う。 「あんたらの存在は何回か警察に保護された時、孤児院に突っ込まれて親が怒鳴り込んで引っ張り出された時に聞いた。初めはそんなクソみたいな母親に尽くした男もバカだなって思ったが今思えば――捨てた男もクズだった。嫌ならさっさと殺せば良かったろ? 川に落とすとか、被害者面すれば済むことだ。でも、流石に出来ない。オレがそれをあえて止めてるんだ。分かってそこそこ話したりしてるんだろ? あと、血液関係も。でも、そろそろ幸せな家庭に満足したから――壊そうかなって思ってたし。我慢出来ないからいいや。壊したら“悠木”はどんな顔をするかな」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!