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山へもう一度
半日授業を終え、影が真下に落ちる頃合いに地面が跳ね返す熱を潜りながら、もう一度山へ訪れていた。
山道を抜け、獣道を走破し、再びあの場所へ戻った。そこは相変わらず強い日差しが降り注いでいることも、一望できる村の姿も変化はなかった。ただ、焼かれた鉄板のように熱い地面にポツリと影があるように見えた。
そこへ近づいて、確りと目を見開くと、それは影ではなく、掘り返された土らしかった。触れるとすこし塊になり、ほろほろと崩れる。明らかに質が異なっている。
もしかしたらと思い、そこを手で掘り返し始める。手がどんどん汚れて、爪の間に細かい土砂が詰まることなど気にも留めず、ただ真っすぐに真下を掘り返し続けていた。
「おやぁ?こんなところで奇遇ですね、中学生さん」
「……お医者さんこそ、こんなとこでどないしはったんですか」
「それはこちらの台詞ですよぉ、穴掘り中学生さぁん」
唐突に声をかけられ、振り向いた先には、汚れの無い白衣を纏ったダイリが厭らしい笑みを浮かべていた。ステップでも踏むみたいに近づいてくるダイリを警戒しながら、穴を掘る手は止めない。
「改めて問いますが、なぜそんなところを掘り返しているんですかぁ?」
「朝に言うたやないですか。ここでウジガミサマを見つけたんが気になってしゃあないだけです」
「そーですかそーですか。私共の開発したシードに酷似した姿であるというウジガミをここで見たと……掘り返している理由にはなっていませんねぇ」
不意にダイリがあらぬ方向へ視線をやる。
途端、がばりと俺の体に屈強な男の腕が纏わりつき、口元に液体の染み込んだ布が当てられたのを感じた。
凍りつくように頭が回らなくなる。
「……さて、運んで下さい」
無関心そうに告げるダイリの、何処か憎まし気な眼差しを最後に、何も抵抗できないで意識は黒に覆われてしまった。
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