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テロリズム
「……準……す?……ょう」
「はい。……ようで……てしま……」
慌ただしい雰囲気の中、目が覚める。徐々に浮かび上がる記憶には、ハッキリとダイリとその仲間らしき男に攫われたことを理解させてくれた。
顔に伝わる冷たい金属の感触をそのままに、瞳だけを動かして周囲を見てみると、そこは何かの基地のようだった。
「……起きたみたいですね。お寝坊さんは先生に叱られてしまいますよ」
ビクリと体が跳ねてしまった。
ダイリから先生という言葉を出たことに、最悪の可能性がちらりと脳裏を過る。
ダイリの瞳は逸れることなく俺の両目に向けられていて、どこか気持ちの悪さを感じる。
「……ここは?」
「テロ組織の地下軍事基地です」
「……お前は何なんや」
「お医者さん兼テロリストです」
「……なんでこの村に来てん」
「丁度良く閉鎖的で、丁度良く政府の機関から目を向けられないと思いましたので」
ダイリは不気味なほど淡々と俺の質問に答えていった。どこの国から来ているのか、最終目的がなにか、あまりに簡単に答えてしまうのだから、質問したいことも次第に無くなり、聞きたくないことまで聞いてしまった。
「俺は殺されんの?」
「はい」
思わず体は震え、背中からは冷や汗がとめどなく流れた。
そう言うやいなや、ダイリはニタぁっと奇妙な笑みを浮かべて、くつくつと笑い出す。
「いいリアクションですねぇ!会ってから生意気そうな顔しか見ていませんでしたが、そういう顔も有るんですねぇ」
堪えかねたのか、ケタケタと笑い声を上げながらダイリは笑う。
悔しさからか、或いは恐怖からなのか、頬を涙がつたった。
「というのは冗談ですよ。殺したところで一文にもなりませんし。なので、彼と同じ途を辿って頂きます。あなたがたの学校でストレス社会から開放された彼とね」
そうダイリが指差す先には、学校の舞台で治療を受けたあの男だった。
床に大の字で倒れ伏している男の顔からは涙と汗、涎など液という液が漏れ、時折ピクリと四肢を跳ねさせる。けれどその表情はあくまで笑っていた。
「実はシードにはお伝えしきれていない事があるんですよ」
平坦な声でダイリは告げる。
「アレは間違いなくストレスを解消するのです。そこに関しては間違いないのですが……詳しく言うとやや乱暴な治療でしてねぇ」
カツカツと男へ近寄りながら、ダイリは続ける。
「人間の脳に元より分泌されている脳内麻薬、それを強制的に増やすんですよ。もちろん副作用がありまして、一度で過剰に行う、もしくは低度であれ長期的に行うことで───」
ダイリが片手で首を持ち上げた男は、なおも力なく、動こうという意思さえ感じられない。二十センチばかり持ち上がった頭は、直後に硬質な音を立てて金属と衝突する。
「──このように、廃人となりますぅ」
その時の俺がどんな表情だったかはわからない。けれど、俺を見たダイリは激しく吹き出して笑った。
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