35人が本棚に入れています
本棚に追加
「隼人、乃愛飯食べたかったんだよな?乃愛がカルボナーラ作ってくれるって」
「え!めちゃくちゃ嬉しいです!宮野さんが良かったら作ってるとこ見てていいですか?」
「いいけど、見てて楽しい?」
「料理出来る人のYouTubeの動画見るの好きなんです。宮野さんみたいに作れる人周りに居ないので見たいです」
簡単に作るカルボナーラだよと言うと、東雲はカルボナーラって自分で作れるんですかと驚いた表情を見せた。横からお前、俺らのバイト先でもメニューにあるだろと七瀬が冷静に突っ込む。
そうでしたっけ?と先輩である七瀬の前で笑ってみせる東雲につられ、宮野もクスクスと笑顔を見せた。この感覚は一体何なのだろうか。初めましての人とは思えない位に居心地がいい。
料理を作っている間も東雲は終始驚きっぱなしで、全てにリアクションをしてくれる為作っていて凄く楽しかった。七瀬の言うように自分と相性は良いのかもしれない。
出来たカルボナーラを東雲と七瀬と自分用に盛り付け、テーブルで三人で並んで食べる。自分の横には七瀬で向かい合うように東雲が座った。美味しく出来ただろうかと宮野はカルボナーラを食べる東雲の事を見ると、東雲は呟くように美味いと言っては頭を抱えた。
「大親友の彼女のツレで美味しいパスタ作ったお前って存在したんですね……」
「誰が大親友で誰が彼女だ。」
「だってこんな美味しいの作れないですもん」
「その歌詞通りに行くと、お前が乃愛に惚れる事になるぞ」
「もう現在進行形で惚れてます」
口を尖らせ、可愛いし料理出来る乃愛さんとずっと一緒なんて七瀬さんはずるいと不貞腐れる東雲。そんな東雲の顔を見て言葉を聞き、宮野は自分の頭で考えるよりも早くに東雲を上目遣いで見ながら自然と思いを言葉に紡いでいた。
「また遊びに来て?その時は東雲くんの食べたい物作るよ」
「え、いいんですか?」
「うん。体育会系ならきっとガッツリ系も好きだよね?」
「はい!というか、食べられないもの無いんで。」
自分から自宅に招くような発言をした事に対して、七瀬は驚いた顔をした。きっと慎吾と武尊と蘭に出会った時は警戒ばかりしていた為だろう。自分でも東雲をまた自宅に呼ぶという発言には少し驚いたが、真っ直ぐポジティブな言葉を掛けてくれる東雲の存在は宮野のメンタル的に凄く良いものだった。
上機嫌にカルボナーラを綺麗に完食してくれた東雲を見て、そんなに美味しく食べてくれるなんてと宮野はむず痒い感覚を覚える。初めましての年下相手にどう接しようか分からない所は多かったが、東雲のようなハキハキとした明るいタイプなら大丈夫そうだ。失礼にならないように東雲の男らしい顔をチラチラと見ていると、七瀬が洗い物してくるから二人で話してろと台所に去っていった。
東雲とソファーに二人で並んで座り、遅くなったが互いの自己紹介をしようと宮野は隣の東雲の腕をつんつんとつつく。
「東雲くんはバスケやってるんだよね?体育大学って言ってたけど」
「はい。小学生の頃からバスケやっててそのまま中学まで続けて高校も大学も一応推薦で入りました」
「え、凄い!」
「頭悪いんでこれしか取り柄無いんですよ」
体を動かす事があまり得意ではなく体力の無い自分からしてみれば、東雲の運動神経やずっとバスケを続けてきた体力が羨ましい。推薦となるとかなりバスケのレベルが高いのではないだろうか?服を着ていても分かるバランスの良い筋肉の付き方はきっと努力の積み重ねなのだろうと関心していると、東雲は決して驕り高ぶる事無くなんて事ないように言ってのける。
「宮野さんは七瀬さんと同じH大なんですよね?医学部って聞いてマジでびっくりしました。」
「自分は体を動かす事が出来ないから勉強頑張ったの。昔から医学について学びたいって思ってたから、今凄く楽しいよ」
「医学部って事は将来は医者になるんですか?」
「そこまでのレベルに立ててはいないと思う。どちらかというと薬品や人体の研究をしたり、人の体を支える仕事に就きたいかな」
「どっちにせよ凄すぎますよ!宮野さんもっと自分に自信持って下さい」
ただ出来ることが勉強だった。昔から勉強が友達のようだっただけなのにと思ったが、東雲は目をキラキラさせて凄い凄いと繰り返す。だが初めて会った人間に自信を持ってと言われると、少し自分を認めてもいいのかもしれない。若干恥ずかしかったがありがとうと返すと、東雲は照れ臭さから頬が赤らんでしまった自分を見て優しく笑う。そしてそのまま目線を後片付けをしている七瀬に移した。
「こんな可愛い人と毎日居て何とも思わないなんて七瀬さん感覚バグってますね」
「中学から見てきた顔だからな。それに乃愛が可愛いのはお前より俺の方が分かってる」
「あ!そういうのマウントっていうんですよ?」
「うるせえな。乃愛と話したいなら俺なんか放っておけ。乃愛、時間あるしいつもみたいに皿とかマグカップの手入れと除菌しておこうか?」
「うん。お願い」
宮野は料理を並べる時に食器にもこだわる。見た目の良さは食欲にも直結して繋がるからだ。白い皿は漂白し、紅茶を入れる度にマグカップについた汚れを七瀬は丁寧に洗ってくれている。
祖母から貰ったお気に入りの皿もいつもは自分で手入れをしているが、いつの間にか七瀬が手伝ってくれるようになった。
「宮野さん、医学部って具体的に何を学ぶんですか?」
「うーん……専門用語使わずに言うと人体の構成とか、医薬品についてとか、なんていうか人によって違うんだよね。今は人体の構成について資料を見てノートに下書きをまとめた後にタブレット使ってレポート書いてるよ」
「それ、どんなのですか?」
「隼人、医学部に通ってる乃愛だから見れるものだからあんまり見ない方がいいと思う。食後は特にキツい」
普段関わることの無い医学部に通う宮野が見る資料に興味を示した東雲に、七瀬は牽制した。七瀬の言う通り、自分の見ている資料は一般人には少しグロテスクに感じるかもしれない。
医学を学ぶのだから当然のように、実際の人間の筋肉や内臓等の写真が添付されている。クッキーを食べながら見ていた時、蘭と七瀬に若干引かれてしまった事があった。
雑誌感覚で見ないでくれと言われ、それ以来資料は一人でいる時か大学にいる時だけにしている。今朝はバスの中で少し見ていたが、写真を添付していない物を予習感覚で見ただけだ。
「何となく見ない方が良いのは七瀬さんの説明で分かりました」
「うん。気持ち悪いって思うと思う」
「気持ち悪いとは絶対思いませんよ!」
東雲に両肩を掴まれ、突然大きな声で言われた為驚きのあまりに目を見開いた。少し困惑する宮野に構わずに東雲は真剣な表情で言葉を続ける。
最初のコメントを投稿しよう!