はじめまして

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「宮野さんみたいな人がいるから病院や医療機関があると思います。確かにグロいとか苦手と思う人が殆どだとは思いますけど、それを気持ち悪いって思うのは絶対違うと思います!宮野さんのような人が医療を支えてるんです」 「え、えっと……ありがとうって言ったらいいのかな?」 「感謝するのは俺ら一般人側です。病気になった時や怪我をした時や薬を飲む時も、全部宮野さんのような人が居るから治療して貰えるんです。俺はリハビリとかで理学療法士にお世話になってるんですけど、宮野さんの事本当に尊敬します」 しっかりと目を見て熱弁され、嬉しさのあまりに言葉が詰まってしまった。医学部に通っている上で気持ち悪いとか、本当に人間なのかとか心無い言葉を言われる事ばかりだった為驚いてしまう。 自分が今自分なりに頑張っている事を全肯定してくれた。東雲の真っ直ぐな言葉が自分の嬉しさに繋がり、胸がいっぱいになり顔が赤くなると同時に綻んだ。そんな宮野の顔を見て東雲はやっぱり可愛いですと肩を掴んでいた手を離し、顔を隠す。 「東雲くんは優しいね。そんな風に言ってくれる人中々居ないから本当に嬉しい」 「当事者しか分からないんですかね?」 「うん。東雲くん右膝一回怪我してるよね?手術したでしょ?」 宮野の指摘に東雲は目を見開いた。なんで分かったのかと聞きたいのだろう。こういった体への指摘は普段余りしないのだが、東雲の真っ直ぐな性格がそうさせたのかもしれない。それに自分自身が今特に力を入れて学んでいる分野だからこそ分かってしまった。 「玄関から部屋に入る時に歩き方で分かったの。結構大きな怪我だよね?」 「はい。でも中学の時に完治してて今は何ともないですよ?」 「怪我した場所を体は本能的に守るからね。軸足の使い方が少し珍しいから。生まれつき左足が軸足じゃなくて怪我したからそうしたんでしょ?」 「そうです!宮野さん凄すぎます…」 驚きながら感動している東雲に、宮野は珍しく調子に乗ってしまう。目の前に居る東雲の右膝を触りトントンと指で叩き、左膝も軽く叩く。 「勝手に触ってごめんね。最近腰痛くない?」 「若干痛いので湿布貼ってます」 「足怪我すると次に腰痛めるケース少なくないから、重症化する前に骨盤と骨の位置を正常にした方がいいと思う」 「それ同じこと監督に言われました。」 自分の得意分野に興味津々で話を聞く東雲にスマホでストレッチポールを見せた。体育学校にはこういう体の調子を整える物は沢山あるだろう。案の定見た事がある所か、大量にあると言う東雲にこれが一番オススメだと宮野は勧める。 「ただ上に乗るだけでもその日に酷使した所楽になるから乗ってみてほしい。YouTubeの動画もあるけど、ストレッチポールの公式サイトもあるからそっちの方がオススメ」 「え、どうやって公式サイト見れるんですか?」 「ストレッチポール、公式サイトで検索したら出てくるよ」 自分が言った通りに東雲がストレッチポールの公式サイトを検索し、出てきたサイトをブックマークした。素直に行動に移してくれる東雲に宮野のテンションがどんどん上がっていく。 「東雲くん、体触ってもいい?」 「全然良いっすよ。鍛えてるんで寧ろ触るだけじゃなくて見てください!あと、治した方がいい所も教えてください」 着ていた服を捲りあげ、腹筋を見せた東雲に対して宮野は手のひらで診察するかのように触る。六つに割れている腹筋に凄く頑張ってるんだねと言うと、東雲は元気に今一番力入れて鍛えてるんですと笑った。 本当に完璧な位の筋肉の付き方に医学部に通う宮野の血が騒いでしまう。初対面の年下の大学生の体を触る自分は失礼かもしれないが、七瀬を見ると無言で柔らかい表情をして此方を見ている為いいのかな?と思ってしまう。 「腕伸ばしてみて?」 「こうですか?」 「あー…ここ痛いでしょ?」 肩甲骨の内側の筋肉のツボを親指で軽く押すと、自分よりも絶対に力が強いであろう東雲が痛いと顔を歪めて直ぐにその筋肉を守るようにクッションで背中を隠した。その様子にやっぱりかとクスクスと笑いながら、嫌がる相手に痛がる事はもうしないという意味で東雲の頭をよしよしと撫でる。 「東雲くんほんの少し猫背気味だったから。あとはストレートネックだけには気をつけてね。」 「これで医者の立場になれないって本当ですか?」 「うん。基礎中の基礎だし検索したら出てくるレベルだよ」 「でも見ただけで分かる宮野さんが凄すぎます」 自分の周りはどちらかというと頭が良い人間ばかりで、こうして鍛えてスポーツをしている人物が居なかった。その為、宮野は鍛えている東雲の体に興味津々なのだ。 東雲が年上の自分相手に緊張し縮こまるタイプだったとしたらここまでは出来なかったが、明るく真っ直ぐないい意味での年下らしさがあった為そう出来る所もある。 「東雲くん初対面なのに色々見せて貰ってごめんね」 「いえ、こっちがお礼を言いたいです。怪我する前に自分の体見てくれる知識がある人なんて居ないんで」 「ごめん……もう一回だけ腹筋見せて……」 「いいですよ〜ていうか何度でも見てください!」 自分自身、勉強に関しては突き詰めてしまう為昔から成績が良かった。今はその勉強よりも好きな医学について変態的に学んでいる。一度は服を着た東雲が捲りあげるように腹筋を見せてくれた為、笑いながら腹筋を指で突っついた。 「凄い。ここまで仕上げるの大変だったでしょ?」 「まあ出来る限りの事はしました!でもまだ足りない位に思ってて」 「充分鍛えてるから背筋とかお尻鍛えた方がバランスいいよ?」 「本当に宮野さん監督と同じことばかり言いますね」 いくら東雲が接しやすい相手だとしてもそろそろ失礼だろうと触る事を辞める。だが東雲は服を着直しながら感服したように自分を過剰な程に褒めてくれた。筋肉の他にも体の柔軟性はどうなんだろうと気になって仕方がない。聞いていいものかとうずうずしていると、東雲が自分の頬を撫でる。 「宮野さんって肌めちゃくちゃ綺麗ですよね。やっぱり栄養のあるもの食べてるからですか?」 「それもあるけど、スキンケアしてるからかも」 「ですよね。すっごいすべすべで白くて綺麗だなあと思って」 医学の次は自分のルーティンでもあり、大好きなスキンケアの話になった。自分は化粧水や乳液だけじゃなくパックをしていると東雲に話す。大体の男性は女の子みたいと言うのにも関わらず、東雲は綺麗になる努力までしてる宮野さん素敵ですと笑顔で褒めてくれた。 その発言を聞いて七瀬はとんでもなく自分と相性の良い男性を連れてきてくれたと思った。片付けをしていてくれているのにも関わらず、東雲と二人で大いに盛り上がってしまう。東雲を連れてきてくれた七瀬の居るキッチンに目を移すと、皿を一つ一つ片付けている七瀬と目が合った。 「楽しそうだな」 「うん!」 「俺もめっちゃ楽しいです」 「それは何より」 片付けを終えた七瀬が台所から出てくる。そして時計を見て再び台所に戻り大きなマグカップに水を入れて持ってきた。 「乃愛、夜の薬飲んどけ。調子良い内に飲んだらいい」 「そうだね」 時刻はもう十九時になろうとしていた。七瀬と病院帰りの雑貨屋に行った時に見つけた可愛いポーチから薬を取り出す。 宮野乃愛様と書かれ一包化された薬を取り出し、いつもの様に飲む。すると東雲が心配そうな顔をしていた為、これは良くないと慌ててフォローをした。 「大したことない薬だから心配しないで?急に薬なんて飲んだらびっくりするよね」 「いえ、全然大丈夫ですけど宮野さんアレルギーとかですか?」 「ううん。精神科通ってるんだ。早めに言っておくね」 精神科は昔に比べると差別される事は減ったが、今でも甘えだと言う人間は少なくない。医者でも嫌味を言う人物が居るくらいなのだから、東雲には早めに言っておこうと思った。仲良くなるならそこをある程度理解してくれる人物で無ければ無理だ。完全にとは言わないが、偏見を持たないで欲しいという自分自身の願いでもある。 早めに言うのは、仲良くなってから偏見を持たれ傷つく事からの自衛だ。それに東雲なら大丈夫だろう。自分も恐らく七瀬もそう思っていた。だからこそ、東雲が発した言葉に空気が凍りつく事になる。 「えっと……精神科って俗に言うメンヘラとかって奴ですよね?」
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