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「この先に乃愛さんが好きそうなお店あるんです。」
「どんな?」
「アクセサリーとか売ってるとこです。男女兼用だったりするんですよ。行きません?」
「うん。行ってみたい」
アクセサリーは医学部では付けられないが、可愛い物をウィンドウショッピングする事は大好きだ。偶に欲しくなってしまう位に可愛いものが好きである。
スマホのマップを確認しながら歩いている東雲の隣を歩いているが、ふと宮野は東雲の一つの優しさにがついてしまった。
歩幅を自分に合わせてくれている。
東雲と自分の身長差や体格から、自分のペースで歩ける事は不自然だ。そこまで気にかけてくれていたのかと宮野は嬉しく思い、東雲の腕を握る手にほんの少しだけ力を込めた。
体が大きくて格好よくて優しい東雲がよく自分なんかと歩いてくれるなと思う。だがやはりそこは七瀬の紹介がある故なのかもしれない。
助けてくれた時は男らしくて、いざという時は凄く頼りになる男性なのだなと宮野は若干顔を赤らめた。
「あ、乃愛さんここです。見つけにくいって言われてたんで迷わずに来れて良かったです」
「可愛い所だね」
少し歩いた程度で着いたアクセサリーのお店は小さな可愛らしい店舗だった。自分が特に可愛い物の中でも好む動物のアクセサリーや雑貨が多く、窓の外から惚れ惚れと見つめて思わず無意識の内に可愛いと呟いてしまう。
急な階段を少し登るような店だったが、東雲が自分の手を取り店内へスムーズに入るように促してくれた。やはり人は性格が行動にも出るのだと思う。
厭らしい事ばかり考えるような先程の男性とは比べてはいけない程、所作すらも男前だなと思った。
「鏡見ていい?さっきの割れちゃったから」
「勿論です。それに俺が買うので好きなの選んで下さい。ここのお店、気を遣うような値段じゃないので」
キラキラとした店内に貼られているポップを東雲が指差す。こちらの商品は五百円均一と書いてあり、確かに東雲の言うように気遣いは必要無いと感じた。
五百円ならば自分でも払えるのだが、東雲はポケットから財布を取り出し自分が鞄から取り出した財布をそのままそっと鞄にしまった。それならばお言葉に甘えて買って貰おうかと、店内をくまなく物色する。
自分は体が小さい為なんの苦もなく見る事が出来るが、東雲程大きな体の人は少し窮屈なのでは?と思った。だが東雲は小さなスペースにある雑貨をじっと見ている。
「これ可愛いですね。栗鼠が五百円玉持つみたいですよ」
「え!?何でそんな可愛い物見つけるの?」
「このほっぺたに五百円貯める貯金箱らしいんですけど、置き物としても可愛いなあって思って」
「か、可愛い……これも五百円なの?」
余り貯金箱としては機能しないような栗鼠の置き物だが、目にはガラス玉が入っており凄く可愛らしい物だった。東雲が試しにと財布から五百円玉を取り出し栗鼠に持たせた所で、自分の中の物欲がこれでもかという程刺激される。
小さな栗鼠が五百円を持っている所が可愛く、値段が五百円ならば鏡と併せて購入したいと思った。栗鼠の置き物をよく見てみると、箱無し少しのスレありと書いてあるが全く気にならない。
宮野は笑顔で栗鼠の置き物を持ち、店内を移動していると自分でもよく知っているブランドの鏡が置いてあり思わず二度見した。
「え、なんでブランドの物が五百円なの?」
「廃棄になる予定のものや売れ残りを売るお店なんです。まだ出来たばかりなので人少ないですけど、ここ多分人気出ますよね」
可愛い物やブランド物が五百円で買えるなんてショップを何故東雲は知っているのだろうかと思ったが、これだけ男前な男子大学生なのだから女子に聞いたのだろうと結論付けた。
もしかして女の子ともここに来ているのか?と気になったが、そんな事を聞いてしまうと本当にデートになってしまうような気がした。
優しい東雲に失礼だろうと宮野は鏡のコーナーに移動する。そこにあった猫の形の鏡に一瞬で心を奪われた。
「隼人、これ可愛いよね?」
「いいと思いますよ。それにします?」
「うん!自分はこういうお店知らなかったから嬉しい……また来たいな」
「俺も大学の彼女居る友達から聞いただけで初めて来ました。なんか歩く度に楽しい所ですね」
ああ。彼女が居る友達が居てその人から教えて貰ったのかと宮野は少し安心し息を吐いた。何に対して自分は安心したのか分からないが、やはり自分の顔を写す鏡はこういう自分を大切にしてくれるような人に選んで貰いたい。
猫の形の鏡を東雲の大きな手の平で持つと小さく見えるんだなとクスリと笑うと、東雲が鏡と栗鼠の置き物をレジに持って行った。
包装を自分でする事が恐らく安い理由の一つでもあるのだろう。鏡は鞄に入れておきたいからと宮野は猫の形の可愛い鏡を鞄にしまうと、東雲は栗鼠の置き物を丁寧にプチプチで包んでくれていた。
年下なのに東雲は本当に優しいなと宮野は紅茶の紙袋に一緒に栗鼠の置き物をしまい、店から慎重に出ると東雲が少し体を伸ばした。
「窮屈だったよね?でも次は隼人の行きたい所行こうよ」
「俺ですか?うーん……俺今物欲無くて…どうしましょう」
アクセサリーショップを後にし、東雲とこれからどうしようかという時に宮野の目にとある店舗が目に止まった。
SNSでこの近辺に何か無いかと探す東雲に、顔を上げれば直ぐに目的地が見つかるよと言いたくなる。宮野が少し向こうにある店舗を指差すと、物欲が無いと言っていた東雲の顔つきが一気に変わった。
「自分で良ければ成分とか見て、隼人に合うもの選ぶよ」
プロテイン専門店。
体育大学に通っていてトレーニングをしているのであれば間違いなく東雲に需要があるだろうと思った。筋肉質な男の人の体の看板が貼り出された黒を基調としたお店を見て、東雲はがっくりと項垂れる。
自分をたっぷり楽しませてくれたのだから、次は自分が東雲を楽しませようと、宮野は項垂れながら悔しそうに笑う東雲の腕を引いた。
「乃愛さんが選んでくれるんですか?ていうか店員さんより詳しく知ってそうですよね」
「一応勉強してるから!任せて!」
「めっちゃ頼りになります。今の俺は物欲しかないです」
自分一人だと踏み入れる事の無い店だった。プロテイン専門店なだけあり、店員も筋肉が付いている感じの良い男性だ。
東雲の事を見て直ぐにこの店の商品に用がある男性なんだと理解したのか、何か聞きたいことあれば声掛けて下さいと言ってくれた。一応頭だけ下げて店内を見ると、筋肉質な男性は笑顔を保ちながら少し距離を置いている。
「隼人はどんなの欲しい?」
「体育大学に通っていてこんな言い方するの馬鹿みたいですけど、筋肉付きやすい奴がいいです」
「じゃあ、タンパク質もそうだけどアミノ酸が多く入っているのが良いと思う。最近バスケしてたら筋肉疲れない?」
「え、なんで分かるんですか?」
「腕握ってる時に分かったよ」
何となく東雲の腕を握った時に筋肉が張っているような気がしたのだ。別に悪い事ではないのだが、激しい練習をしている内に疲労が蓄積されたのだろう。
東雲はきっと自宅でスポーツをやっているのだから食事には気をつけているだろうと前提し、筋肉を付けるのに最適な栄養補助食品であるプロテインを宮野は一つ一つ吟味する。
「これはダメかな……脂質多いから」
「英語なんで何書いてるか俺には分からないんですけど、乃愛さん的にはダメな物なんですね」
「うーん……これは人工甘味料多いから美味しいけどオススメ出来ない」
「日本語で書いてますけど俺馬鹿過ぎて本当に分からないです。幼なじみが飲んでるのと同じの飲んでるだけなんですけど、これを機会に変えます!ていうか乃愛さん本当に凄すぎますよ」
宮野的にはたんぱく質が豊富な事は大前提として、アミノ酸が入った人工甘味料の使っていない脂質の少ないプロテインを見つけてあげたかった。
プロテイン専門店なだけあって外国の物も多く取り揃えている為、多少英語やドイツ語が読めなければ分からないだろう。
知識が無いならば幼なじみが飲んでる物を飲むという選択肢は間違いではないが、東雲位の体つきならばもっといいプロテインがあると思う。筋肉質な男性が多数居る中一人店内中を歩いていると、先程の店員が此方に歩み寄ってきた。
「お兄さんの彼女さんめちゃくちゃ詳しいですね。トレーナーとかですか?」
「あ、乃愛さんはH大の医学部生なんです」
「え!?隼人!言わなくていいって!」
「なるほど〜医学部生からしてみたらプロテインのデメリットも分かってしまいますよね〜」
「なんかごめんなさい…あと自分男なんで……」
プロテイン専門店の男性に医学部生だとバラされて宮野は少し気まずい気持ちになったが、東雲と店員は筋肉について楽しそうに話している。
筋肉がこれでもかという程付いている男性達がH大学の医学部と聞いて、少し遠慮がちに集まってきた。
宮野がこれはこの成分が入ってるから脂肪にもなりやすい。これはいい成分が入っているけど必要量は入っていないと、淡々と話すと筋肉質な男性達は各々持っているプロテインの購入を迷いだす。
なんだか店の迷惑になっている気もしなくはないが、東雲は凄いですよね?と店員や周りの男性達に対してどうだと言わんばかりの態度だ。男性達も勉強の為居させて下さいとついてまわる。
暫く店内を見ていくうちに、漸く宮野がオススメしたいと思っていた成分のプロテインを見つけた。水と混ぜるタイプだからあっさりとしていて、尚且つビタミンも入っているから体にもいい。
「隼人、これ!これを豆乳と混ぜて飲んだら絶対に身体にいいから!」
「分かりました。買ってきます」
人工甘味料を使っていないのにも関わらずチョコレート味のプロテインを東雲はレジに持って行った。少々他に比べて値段はするが、それ位にいいものだと宮野的には思う。それに、体づくりが必須の東雲にはこれくらいいい物を飲んで貰いたいという自分の気持ちもあった。
クレジットカードで会計を済ませた東雲が、自宅まで郵送を頼みたいと店員に言い住所を書いている所を宮野は見届ける。
「乃愛さんありがとうございます」
「ううん。良い物があって良かった」
「乃愛さんにプロテイン選んで貰って、今乃愛さんに体も気にかけて貰えて俺は明日からも頑張れます!」
ポジティブで前向きな性格なのは体を動かしている事もあるかもしれない。体を動かすと自律神経やホルモンバランスが整い、筋肉が付きパフォーマンスの向上があると自信を付ける男性は多い。
これはれっきとした研究のデータでもある。東雲の腕を掴み、宮野は笑顔でこれからも応援してるねと言おうとした瞬間、宮野のスマホの着信音が鳴った。
LINEの通話音ではなく着信音。まさかと思い直ぐに鞄からスマホを取り出し、宮野はそこに表示されている発信源に目を丸くして一旦東雲の腕を離した。
「隼人!ごめんね、この電話は出させて!」
「え?いいですよ」
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