ここが精神科

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ここが精神科

朝の六時にセットしていたアラームが寝室に鳴り響く。それを寝ぼけた頭と体で止めた宮野は、スマホの画面を開いては直ぐにLINEのトーク画面に飛ぶ。 いつもは大学の時間ギリギリに起きている為朝に来ている東雲からのLINEは今日は来ていなかった。 ついこの間出会ったばかりの東雲からの連絡だが、来ていなければ少し寂しくなってしまうのだなと宮野は溜め息を着いてから体を起こす。 今日は東雲と一緒に病院に行く日である。数日前に東雲曰くデートという名の外出をしたのだが、帰り際の東雲の発言には少し驚かされた部分があった。病院に一緒に行きたい。 もっと理解をしたい。 そんな事を真剣に言う東雲は一体何を考えていたのかはさっぱり検討もつかない。勿論嬉しい気持ちはあるが、まさかメンヘラと言った事を今でも気にしているのでは?と不安になる。 だがさっぱり検討もつかないと言いつつも、東雲の顔から後悔等から自分に対して理解をしたいと言ったようには思えなかった。それでは何故?と宮野はカーテンを開けて考えてみた。 そしてきっと東雲は物凄く優しい人だからこそそう言ってくれたのだろうなと結論付け、宮野はそのままリビングへと向かった。 六時にアラームをかけたのは勿論寝坊をしない為でもあるが、病院に行く日は気持ちをリラックスさせる為に白湯を飲むというルーティンがあるからだ。 本当は水を煮詰めるような白湯を作りたいのだが、そこまでは流石に出来ないなと電気ポットで少量の水を沸かす位にしている。 この白湯を飲むと本当に体と心が落ち着く為欲を言えば毎日飲みたい位なのだが、毎朝六時に起きる事が体に負担になるなと宮野は苦笑いをし、沸いたお湯をマグカップに移した。 白湯が冷める間に宮野は洗面所に行き歯磨きや洗顔等の身支度を行う。そしてそのまま寝室に白湯の入ったマグカップを持っていき、美顔器のスチームを当てながら化粧水を手の平でパッティングするように顔を包み込んだ。 やはりスキンケアをしていると気分が上がるなと笑顔になり乳液に手を伸ばしたが、そこでふと手を止める。 別に必要は全く無いのかもしれないが、東雲と一緒に病院に行くのだとしたら化粧水だけで本当に良いのだろうかと思い、医学部の女子から貰った韓国の三分間で肌が潤うパックに手を伸ばした。 深呼吸をして日光を浴びている間に少しでも可愛くなれるならと、宮野はパックをしながら寝室の窓の傍に立ち日光を浴びる。本当に三分間で肌がモチモチになるのかと勝手に検証をしたのだが、深呼吸をし終えてパックを剥がした後に本当に肌がふっくらとモチモチしている事に驚いた。 流石流行りの韓国スキンケアなだけあると宮野はそのパックのブランド名をAmazonで検索してみると、こんなに便利なのにも関わらず手頃な値段で購入出来るセットが売っていた。 他にもシートマスクがセットになっていたり、今なら美容液も付いてくるという謳い文句に完全に心を奪われ、美顔器でスチームを浴びながら祖母から送られてくるAmazonのギフトでスキンケアセットを購入した。 マイページに飛ぶといつの間にか増えているAmazonのギフトの残高に、また祖母が施設内で職員にバレないようにとチャージをしたのだなと宮野は苦笑いをする。 多少のギフトなら良いのだが、祖母のチャージをする額の桁が少し多すぎる為宮野は少し罪悪感を感じてしまうのだ。 病院に通い薬を飲みながら大学に通う今の自分は、中々他の大学生のようにアルバイトが出来ない。それを理解してくれている祖母は、今の時代はネットで買えない物は無いのだからとAmazonに目をつけたのだ。 施設内からだと現金を直接渡せないからと、こうして残高が減る度にチャージをしてくれるのだが、本来は自分で働いて買う物なのにと若干病んでしまう。 だがそんな自分に以前七瀬が、身内から貰える物は貰えるだけ貰ったら良いと言ってくれた。 でもと言葉を続けようとした宮野に対して七瀬は、じゃあ乃愛は医学部の多忙な勉学に追い込まれて親から仕送りを貰って生活をしている生徒や、野菜を実家から送って貰っている武尊と慎吾を悪く思うのか?と言ったのだ。 そう言われてみると確かに悪く思わないなと思ったし、医学部の多忙さを知っている自分からしてみると正論でしかないと思った。 だが、そこまで七瀬が言ってくれているのにも関わらず宮野は毎日のように自分を責めてしまう。単発のバイトでも良いからやればいいのにだとか、家庭教師をやればいいのにだとかグルグルと頭の中で自分自身を攻撃するのだ。 これが自分の性格でもあり、精神科に通い続けなければいけない理由の一つなんだよなと宮野はスキンケアを終えてから深く溜め息をついた。 病院に行く日はいつもこうして必要以上に心がざわめいてしまう。今日は東雲と一緒に病院に行くが、情けない姿を見せてしまうかもしれない事を今更ながら危惧した。 東雲とはまだ出会ってそこまで時間は経っていないが、東雲なら笑顔で大丈夫ですよと言ってくれると信じたい。 だがせめていつものように可愛い見た目でありたいなと思った宮野は、色素の無い唇にリップの入ったポーチからこの前東雲が褒めてくれたブランド物のリップを取り出して唇に乗せた。 そして最近ドラッグストアで見つけた肌馴染みが良いのにキラキラとしているアイシャドウを、指でトントンと瞼に乗せてみた。 値段が安かった為余り期待はしていなかったが可愛い色味とラメだなと、明るく見える自分の顔に満足し、宮野はスマホ片手にキッチンに向かう。 毎日料理はしているが、今日ばかりは簡単に済ませたい。前日に焼いて解しておいた鮭と、自家製の梅干しを白米に乗せ、鍋で温めた出汁を上から掛けて出汁茶漬けを作った。 自分はあまりインスタント食品を好まない為こうして出汁を使って手抜きをする。蘭からは手抜きの意味を調べてみろとコンビニでカップ麺を指差して言われたが、極論カップ麺を食べる位なら自分はご飯を食べたくないと思うのだ。 ゆっくりと出汁茶漬けを食べ、朝の薬を飲み、パジャマのまま病院に行く時用の小さな鞄に必要な物が全て入っているかというチェックをした。 保険証、お薬手帳、審査券、予約カード、財布と全て入っていることを確認してから宮野はソファーに座り、もう一度東雲からLINEが来ていないかチェックをした。 当たり前なのだが、大学を通っていると時間的な問題で七瀬は迎えには行けるけど朝早くに病院まで送る事は出来ないと言っていた。だからこそ学ぶ事が真逆とはいえど大学生である東雲に無理をさせてしまっているのではと心配になった。 朝から一度もLINEが来ていなく、もうあと自分は着替えれば準備が出来る状態だからこそ不安になる。それに約束の時間も近い。 『準備出来たよ。今更だけど隼人この時間って大学じゃない?無理させてない?』
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