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少し表情が強ばっている七瀬に、先程まで笑顔だった宮野の顔からすうっと笑顔が消えていった。
確かに今はタイミング的にも絶対七瀬だと確信していた為、不用心な事にモニターでの確認を怠ってしまったのだが、七瀬が自分の事を咎めるように言う為体が縮こまってしまう。
こんな見た目だからこそ七瀬は昔から心配をする羽目になるんだよなと、宮野はその場に立ちながら着ているニットの裾を握ると、七瀬がそのまま自宅の玄関のドアを閉じた。
「乃愛は可愛いし、最近何かと物騒だから俺は不安になるんだよ」
「ご、ごめん……七瀬が来てくれたから嬉しくて……」
「……俺が来て嬉しいとか言ってくれんのは俺も嬉しい。ていうか来るなり説教じみた事言って悪かった。でも本当に気をつけて欲しい」
七瀬に体を引き寄せられサラサラとした伸びた髪を撫でられる。早く七瀬に会いたかっただけなのだが、やはり可愛いと客観的に見て思われる見た目をしている自分は男性ながらにも用心はしなくてはいけないのだなと宮野は少し落ち込んだ。
真面目な七瀬の言い分は痛い位に分かるが、今は自分とご飯を食べる事を楽しんで欲しいと願ってしまう自分の貪欲さに嫌気が差す。
少し目に涙を浮かべながら靴を脱いだ七瀬の手をそっと握ると、七瀬は少し目を見開いた後に直ぐに優しく笑った。
「化粧してんのか?今日は来るのは俺なのに」
「ええっと……新しく買ったリップ塗ったの。あとチークとハイライト」
「似合ってるし可愛いよ。ごめん。言い方悪かったよな」
「ううん。これからはちゃんと気を付ける……七瀬は何も悪くないよ」
そのまま七瀬の手を引き宮野は用意していた混ぜご飯を見てもらおうとキッチンに向かって歩いた。
自分の後ろを歩く七瀬の耳からはピアスが垂れており、可愛いと言われる自分には無縁な男らしさがあるなと宮野は七瀬の事をチラチラと見た。
七瀬はいつもこうして自分が少しメイクを変えただけでも気が付いてくれる。
やはりモテる男は違うなと、宮野は振り返り七瀬の体に抱き着くと、七瀬は少しよろめきながらも自分を抱き締め返してくれた。
「乃愛は可愛いな。俺に甘えてんのか?」
「……あ、朝の薬飲むの忘れてた」
「あのなあ……折角家に居るのに体に負担かけてどうすんだよ。俺が準備するから薬先に飲んでろ」
コートを脱ぎ、持ってきたトートバッグをテーブルの脇にに置きながら自分の体を優しくソファーに座らせてくれる七瀬はやっぱり優しいと思う。
いつもいつも甘えたくなってしまう自分の友人であり、こうして接しているとやはりいつも同い年なのかと疑ってしまう程に頼り甲斐があるのだ。
ソファーに座っていると、七瀬が宮野のいつも飲んでいる朝の薬を取り出しマグカップに水を注いで手渡してくれた。
その薬を飲んで宮野はソファーの上で体育座りをしていると、七瀬がふと自分から目を逸らす。
「こんなコート持ってたか?」
「あ、それね、おばあちゃんがプレゼントで送ってくれたの。隼人にも見せたんだけど可愛いって言ってくれた」
「へえ。隼人に見せたって、俺が来るまでここに居たのか?」
「そんな訳無いよ。写真で見せたの」
祖母からの高価なプレゼントをどうしたらいいのか相談しただけで、別に可愛いと言われる為にLINEをした訳では無いのだが、こうして言葉にするとまるで可愛いコートを見てくれとLINEしたように感じてしまう。
やはり接し方を間違えているよなと反省しながらも、まさか東雲がここに居た訳はないと弁解するように両手を振ると、七瀬はコートと自分を見比べて優しく笑った。
「可愛いよ。絶対乃愛に似合うと思う」
「ありがとう。おばあちゃんに感謝だね」
「そうだな。混ぜご飯と残ったおかず適当に盛り付ければいいのか?」
「うん。ありがとう」
朝食の準備に取り掛かりにキッチンに歩いて行った七瀬の事を見送り、宮野はスマホを手にしては東雲とのトーク画面を見た。
可愛いので絶対似合いますから!と断言している東雲にクスリと笑い、そこまではっきり言ってくれてありがとうと心の中で感謝する。
だがそこでふと気が付いたのだが、まさに今たった数秒前に七瀬も同じく、可愛いよと乃愛に絶対に似合うと言ってくれた。
サラリと受け流してしまったが、言葉で言われるのと文字で表現されるのでは受け取り方が変わるのだなと宮野は目を瞬かせる。
「乃愛、早く食べてレポートやろう」
「う、うん!」
「と言っても乃愛が作った飯は味わって食べるけどな」
「七瀬……」
何度七瀬の為に料理を作っても絶対に七瀬は感謝の言葉を自分に投げかけてくれる。本当に出来た友人だなと宮野は七瀬と二人で朝食を食べていると、七瀬が笑顔を見せては自分の頭を優しく撫でてくれた。
その手の平の感触に宮野は顔を綻ばせ、七瀬にありがとうと言おうとした瞬間、宮野と七瀬のスマホの通知音が同時に鳴った。二人のスマホが同時に鳴る。つまりそれはとLINEを開いた。
『乃愛…お願いだから野菜と俺を救ってくれ!』
『久しぶりに乃愛飯会開く?』
武尊と慎吾の相変わらずのやり取りに、どうやら自宅でレポート作業をするだけに留めておいたのは自分達二人だけでは無かったらしいと宮野は苦笑いをし、七瀬は頭を抱えながら心底嫌そうに溜め息を付いた。
二人の自宅に実家から野菜が送られてくる時期がもう来たのかと驚きながらも、宮野は二人に自宅に来るようにとLINEを送る。
ついでに送られてきたであろう冬野菜で自分の食べるおかずも作ろうかなと考えていると、七瀬が二人にいつものようにLINEで釘を刺していた。
『お前ら乃愛に渡すものは渡せよ』
『分かってるって!寒いから鍋とか食べたい』
『乃愛に任せておけば美味いもん食えるんだから、リクエストすんな』
いつどんな時でも頼りになる七瀬だが、そういえば直近で言うとこの間東雲と病院に行った時、自分がバスで寝ている間にLINEをくれていた。
毎回変わらない診察はどうだったのか、薬は変わらないのかという確認と一緒に、東雲と一緒に行く病院はどうだったのかとLINEで問われたのだ。
それに対して宮野は自宅に帰ってから診察も薬も変わらず、ただ東雲と病院に行く事は嬉しかったと返事をした。
すると七瀬はそれは何よりと自分に返事をくれた上で、『俺が必要だったらその時は直ぐに言ってくれ』と頼り甲斐のある返事までくれたのだ。
東雲とは違う優しさがまた身に染みるなと、優し過ぎる自分にとっての大切な友人の存在に目に涙を浮かべたのだ。
「一旦グループLINEミュートにして朝飯食うか。乃愛が折角作ってくれたのに冷めるじゃねーか」
「そうだね。武尊と慎吾は野菜食べられれば何も問題無い筈だよね」
「適当に自分で何かしらしろよって話だけどな」
「まあ……それは……ってあれ?蘭からLINEだ」
「蘭?珍しいな」
最早二人で盛り上がっている武尊と慎吾は放っておき、蘭からLINEが来るなんて珍しいなと宮野はスマホを手にする。
すると七瀬もスマホを手に取っては驚いた顔をした為、七瀬にもLINEが来ているのかと宮野は七瀬と並ぶように座って蘭からのLINEを開いた。
『今日乃愛飯食べた後に、七瀬と乃愛に相談をしたい』
相談?一体どうかしたのだろうかと不安になるが、七瀬も今まで一度も来なかった蘭からの相談という単語のLINEに困惑をしているようだった。
グループLINEに送らないという事は自分と七瀬だけに送ったのだろう。ならば時間を作り話を聞こうと、七瀬と今二人で居る事も併せて話を聞くと返事を送ると既読だけついてLINEは終わった。
「相談ってなんだろう」
「さっぱり分からん。検討もつかない」
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