存在しない欲

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「まじで乃愛飯最高!」 「ほんっとに乃愛の作る飯が一番美味いわ!酒も美味いし」 実家から届いた野菜のダンボールと近くのスーパーで買った肉を持ってやってきた友人の武尊と慎吾は、満面の笑顔で料理をつついていた。実際美味しいと思って貰えるような料理を作りたいと思いながら作ったものを、こんなにも分かりやすく表情と言葉で表してくれると嬉しく思う。 ただ酒が入ってしまうと二人揃って声が大きくなってしまう。壁が薄い訳では無いが隣に聞こえてしまったらどうしようと不安に思うと同時に、もう一人の友人である綾瀬蘭が注意した。 「武尊も慎吾も揃ってうるさい。乃愛の飯は美味いけど隣人トラブルになったら乃愛飯食べられなくなるぞ」 蘭も同じくH大学に通っている。経済学部に通い日々勉強に励んでいる翡翠色の瞳が特徴的な少し派手な男性だ。武尊と慎吾は如何にも田舎から上京しましたという風貌の大学生だが、蘭は大学内の女性からの支持が熱い美形である。 そんなタイプの違う三人と仲良くなれたのは、七瀬を介して知り合ったからである。七瀬は時々宮野と相性が良い男性を紹介してくれる時がある。他人と関わるのが苦手な宮野が笑顔で家に招くのも、自分を理解している七瀬が紹介した人間だからだ。 三人共自分に害のある人間では無いし、こうして友人が増えるのはシンプルに嬉しい。その中でも蘭は七瀬と一緒になり自分の事を思って発言してくれる事が多い。七瀬も蘭はシンプルに友達として連絡したいと言っていた為、美形同士相性が良いのだろう。 自分の作る料理は肉じゃがやコロッケ等の定番料理だけではない。個人的に気になった調味料を使い、パズルのピースのように相性の良い野菜や肉や魚を組み合わせて調理する。 自分好みの味のものばかりだが、自分の料理スキルを磨いてくれた祖母の味を再現している為味は保証されている。一人暮らしをしているコンビニ弁当ばかりを食べる大学生が、宮野の料理が恋しくなる理由はそこなのかもしれない。 「乃愛、大丈夫か?結構作ってるけど」 料理を食べていた七瀬が自分が手を止めた瞬間を見計らって台所に様子を見に来てくれた。コンロにグリルに電子レンジに炊飯器、全ての調理家電を駆使してひたすらに料理する自分を心配してくれたのだろう。 宮野はいつも自分を気遣ってくれている七瀬に決して無理はしていないよという意味で、ふんわりと笑って首を縦に小さく振った。 「大丈夫。楽しいし平気」 「なら良かった。ベランダ借りるな。一服してくる」 真面目な性格の七瀬は意外にも煙草を吸う。宮野の体を気遣い、宮野の前とよく宮野が乗る車の中では絶対に吸わない為、宮野自身七瀬の煙草を吸う姿は見たことがない。
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