将来

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東雲隼人side 真冬の北海道。大寒波が来るようなこんな時期に、東雲と七瀬は並んで歩いていた。 きっかけは自分達にとって驚愕する事だった。宮野からアルバイトを始めたから店に来てくれと二人にLINEを送られてきたのだ。 二人に何の相談も無く決めた宮野に困惑しながらも、位置情報通りに歩いていく。 「乃愛がバイトするとか予想もしてなかった」 「どんなバイトでしょうね?乃愛さん大丈夫でしょうか?」 雪の降る街中を東雲と七瀬は歩き、送られてきた位置情報の場所に到着し、宮野が働くと決めた店を見て二人で納得した。 可愛らしく飾られたドライフラワーや雑貨、紅茶専門店と書かれた小さなカフェに、何故ここで働こうと思ったのかいう疑問にアンサーが出たようなものだ。二人で店内に入ると、ニットを着てエプロンをした宮野が顔を輝かせて出迎えてくれる。 「七瀬も隼人も来てくれてありがとうー!寒かったよね?入って入って!」 「めちゃくちゃ乃愛さんらしい可愛いお店ですね。俺らが居て大丈夫なんですか?」 「全く問題無いよ!」 「どういう経緯で働こうって思ったんだ?」 「ここのお店おばあちゃんが元々お世話になってたから、子供の時から経営してるおばさんとおじさんとは顔見知りだったの。カフェも土日の十一時から十六時までしかやらないし、自分は紅茶好きだしやってみたいって言ったらその場で採用されたの」 働きたてなのにも関わらず、慣れた様子で宮野に席に案内される。確かに紅茶の知識のある人間だと、採用されやすいだろう。顔見知りだとしたら尚更だ。 おまけに宮野の醸し出す優しい雰囲気と笑顔。カフェ店員になるべくしてなったような宮野の姿を見て可愛いなと顔を綻ばせると、宮野が笑顔を此方に向けてくれる。 「寒かったよね?丁寧に淹れるから時間かかっちゃうけど、七瀬も隼人も飲んで行ってね!じゃあちょっと待っててね」 「ありがとうございます」 大量の種類の紅茶の茶葉を厳選し、宮野が二つのマグカップに入れる。そしてそのままキッチンの奥に消えて行った。 宮野らしい店と働き方に安堵していると、横に座っていた七瀬が足を組んで自分をじっと見てきた。全く意図の読めない七瀬の表情に東雲はどうしたんだと身構える。 「なんすか?」 「なあ隼人、お前は乃愛の事好きなのか?」 唐突な質問に驚いた顔をしてしまった。だが自分の宮野に対する態度を見ていたら、七瀬は気付いて当然だろう。 可愛らしい顔も声も優しい性格も、おまけに料理が出来る医学部の秀才。自分が好きになる相手には幾分条件が良過ぎるが、宮野と接する毎日を思い浮かべながら東雲は顔を赤らめて頷いた。 「はい。好きです」 「そっか……」 七瀬は小さく息を吐いた。正直七瀬の宮野への態度を見ていて思う事があった。どんなに付き合いが長かったとしても自分が恋人になりたいとライバル視している部分があった。 その為宮野が好きなのかなんて質問をし、溜め息を付くということは七瀬も思う事があるのだろうか。 だが自分の予想と反して七瀬は何故か悲しそうに目を伏せ、サラサラの金色の髪を耳にかけながら東雲の膝元を見た。 「お前が前に言ったように、俺は乃愛の事を……乃愛の可能性を信じてやる事が出来なかった。」 「七瀬さん?」 どういう事だ?宮野が好きだからだとか宮野の恋人になるのは自分だとかそういう話では全く無い。七瀬は以前に自分が言った言葉を苦しそうに呟くように言い、財布から千円札を取り出しテーブルに置いた。 「乃愛の事、よろしくな」 自分の顔も見ず、七瀬は自分自身の表情も見せずにそのまま立ち去って行った。 寒さが今季一になるとニュースではアナウンサーが言っていた。紅茶を持って出てきた宮野が、七瀬が居ない事に困惑する。それは東雲も同じだ。よろしくなだと?あの七瀬が誰かに宮野を託す訳が無い。 病院がある度に宮野を迎えに行き、何かある度に宮野の家に行く。それが七瀬にとって宮野乃愛がどれ程に大切な存在なのであるかを物語っているような行動だ。 バイトを始めた宮野を褒める訳でも、責める訳でもなく、その姿を一瞬だけ確認し宮野本人には何も言わずに背中を向けてその場を離れたのだ。 十年間傍に居たとは思えない、まるで永遠の別れのような立ち去り方。 その去り方に東雲は人生で感じた事の無い侘しさを感じ、隣で困惑しながら七瀬にLINEを送る宮野を黙って抱き締めた。
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