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はじめまして
翌日になり目を覚ますと熟睡出来たのか身体の疲れはすっかり取れ、楽に起きることが出来た。LINEを開くと武尊と慎吾が朝食に宮野が渡した炊き込みご飯のおにぎりを早速食べたらしく、最高に美味かったと感激したようなLINEが来ていた。蘭からは何も連絡が無いがこれはいつも通りなので何も気にならない。
七瀬からLINEが来ていないのは珍しいが七瀬も七瀬で忙しいのだろう。
宮野が作った手料理を初めて食べた友人は七瀬だ。高校生の時に祖母直伝のだし巻き玉子を食べ、天才と褒めてくれたことを思い出す。
せっかくなら早く起きる事が出来たし七瀬の分のお弁当も作ろうと決めた。
身支度を済ませ軽くスキンケアをし日焼け止めを塗り、鏡を見ると少し唇に色素が無かった。
元々低血圧だからだとはいえ見栄えが悪いと、ツヤのあるティントリップを塗りナチュラルに肌なじみの良いピンク色の唇に仕上げた。
大学用の鞄に皮脂が出た時の為の小さなパウダーと一緒にティントリップをしまう。
我ながらこんな事をしている自分は本当に女の子みたいだと思うが、今の令和という時代は自分より凄い人が良くも悪くもいる。
百貨店などに行くと男性向けのコスメコーナーが出来ているような時代だ。それに大学でも自分の中性的な見た目を周りは凄く良いと褒められることが多く、大学内を歩いていて男性からナンパされた事も少なくない。
女子からも乃愛の顔に産まれたかった、男のくせに肌綺麗で羨ましいと嘆かれた事がある。
幼少期は少女めいた自分の顔はコンプレックスだったが、こうして大人になると逆に受け入れられるどころか羨ましがられる事の方が断然に多くなった。
だし巻き玉子を作るのは宮野にとっては朝飯前だ。慣れた手つきで卵を割り、自分が一番好きな出汁を少し入れる。目分量で砂糖等の調味料を入れ少しだけ水を入れ、祖母から譲って貰った卵焼き専用のフライパンでいとも簡単に卵を巻いていく。
自分用の小さな弁当箱と、七瀬用に買った少し大きめの弁当箱に、昨日の炊き込みご飯を詰める。作り置きしておいたきんぴらごぼうやひじきの煮物、焼いて少し休ませた卵焼きを入れベランダで育てていたプチトマトを彩り良く入れた。
朝食は全粒粉のパンにクリームチーズとジャムを塗り、七瀬から貰ったはちみつ紅茶と共にゆっくりと食べた。
一応七瀬にお弁当作ったよとLINEを入れると、数分後にありがとうとLINEが来た為昼食は七瀬と食べることが決定した。教育学部と医学部の距離は決して近くないが、医学部の近くに大きな木があり座るところも充実している為、七瀬がわざわざ来てくれる。
七瀬曰く選ばれたトップの人間しか居ないからこっちの方が居心地も良いし、煩く付きまとう奴が居ないから楽との事だ。確かに教育学部と医学部では生徒の数は医学部の方が少ない。
教育学部を下に見ている訳では無いが、医学部は他の学部と比べると変に騒ぎ立てる人間が入れる学部では無いと自分でも思っている。それ相応の性格の人間ばかりだからこそ、大学生活が順調なのもあるかもしれない。
だが大勢で楽しく過ごすのもいいかもしれないが、宮野的にも七瀬と二人で過ごす方が楽しいし気疲れもしないのだ。
専用のiPadや筆記用具やノートをリュックに入れ、お弁当箱が二つ入った保冷バッグを持って家を後にする。
家の前にあるバス停からは大学の前に停るバスが沢山ある為、本当に利便性が高い。そしてこの時間でも座って登校出来る事は本当に有難い。
折角ならと、ネットで有名な医師の人体の構造についての写真付きの論文に軽く目を通した。朝からよくそんなものを見れるなと蘭に言われた事があるが、自分みたいなタイプが居ないと医療機関は成り立たない。
実際宮野はこの論文を見ながら食事をするのも全く苦ではない。七瀬はなるべくしてなった奴だからと若干驚いていた蘭に説明し、どちらかといえば俺も無理なタイプと言っていた。
一年の時は一般教科を学んでいたが、三年になった今は専門的な事を学ぶ事が多い。研究をする者もいれば知識を磨く物もいる。
宮野はマルチタスクに両方をこなす為、教授からはよく声を掛けられる事が多い。この医学書を読んで感想を教えて欲しいと頼まれるだけではなく、宮野くんの様な人間が日本を支えていくと絶賛される事もしばしばだ。
勿論悪い気はしないが、そんなに?と思う事が多い。大学内を歩いていると何人かの同じ医学部の生徒におはようと声をかけられ、おはようと手を振って返した。
今の宮野が主に学んでいるのは外科的な要素を兼ねた医薬品についてだ。自分自身も薬を飲んでいるし、病気の祖母への理解を深めたいと選んだ道だったが相性が良かったらしく、のめり込むように薬品と人体についての知識を身につけた。
教室の端に座り、以前教授にこれを是非学習に役立ててくれと渡された辞書のような医学書を捲りながら、iPadで論文を読み、学んだことを纏めていく。分からない事があったとしても教授に教えてくれと頼めば、教授は大喜びで教えてくれる為、好きなことを学びながら生活している感覚だ。
感覚狂ってると蘭と七瀬は揃って言うが、宮野の基準が高すぎる余りに着いてこれる人間は数少ない。だからこそ教授が貴重な医学書を宮野に渡している事の本当の意味に宮野自身も気づいていない。
没頭して学んでいるとあっという間に昼間になってしまった。論文の内容を走り書きで仮だが綺麗にまとめたノートを、隣に座っていた四年の先輩がチラリと見て宮野は本当に凄いと褒めてくれた。
ありがとうございますと返し、いつも昼食を食べている場所に移動する。
するといつもなら直ぐに自分の存在に気が付く七瀬がスマホを見て渋い顔をしていた。
何かあったのだろうか?
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