ポルノ映像作家の奇跡

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 奨学金を貸し付ける、これ自体可笑しいことだ。現にOECD加盟国の中で大学授業料が有料で且つ公的な給付型奨学金がないのは日本だけだ(アメリカも有料だが、無償化する州も現れている)し、奨学金が借金となって貧窮する学生を生むことは福祉国家や他の先進国では有り得ない。無償に平等に自由に教育を受けられる環境を与えずして何の進歩発展があろうか、一体全体、日本は後進国に成り下がる気か!これがジャーナリストとして気焔を吐いた奥島徹の最後の言葉だった。皮肉にも真摯にジャーナリズムに取り組んで来たが為の挫折。そして自己破産。  本来、権力に対する監視役である筈のジャーナリストが批判精神を失い、政府の太鼓持ち宛らになる。嗚呼、なんと嘆かわしい、そんな奴らが成功する。全く以て間違っている。その間隙を縫って政府はあらぬ方へ暴走し、殊にDX化の遅れは顕著で通貨の価値で言えば新興国のトルコにも劣る為体。正に後進国。その通り、あなたは正しいわ、だからいけないのよ!もうこんな生活こりごり!ダメダメ!いやいや!なぞとヒステリックに泣き叫び、果てはパニクる程に喚き散らした妻と離婚。嗚呼、なんと理不尽な!後に残された徹は我が一人娘、聡美の奨学金を返済出来ないし、聡美は聡美でコロナ禍で碌にバイトも出来ず、マスコミによって錯覚させられコロナ禍前の生活に戻った積もりでいる昨今、手っ取り早く稼ごうと体を売る女子大生の一人になり兼ねない。そんな剣呑な状況にあって徹は奨学金を利用し続けるべく四親等以内の親族に全て当たった所、ほとんど守銭奴で兄の渉に保証人になってもらうより他に選択肢がなくなってしまった。選りに選って渉はポルノ映像作家。而も聡美は中々の美少女(19歳)ときているから素人をモデルにイメージビデオ(ヌード)を撮ることが本業たる渉にどんな条件を突きつけられないとも限らない。ところが渉は徹に持ちかけられると、快く引き受けた上、エアロビクス教室やエステサロンに聡美を自腹を切って通わせてやることにした。元々器量良しで小3の頃から早くも胸が膨らみ始めた聡美に目を付けていた渉は、これ幸いと聡美を最高のモデルにして自分の作品をヒットさせるべく企図したことであった。矢張りそんな下心があっての気前良さ、また、どんな卑猥な、えげつないエロ動画を撮るか、分かったものじゃない。となるところだが、驚くの何のって、その余りの驚きようが渉に自浄作用を齎した。と言うのは背が伸びてシェイプアップして全体的にスラリとし、それでいて胸が更に大きくなり、而も頬の肉が程良くそげ、シュッとした顔立ちになり、どこもかしこも理想的なラインで構成された聡美の10代から20代にかけての驚くべき奇跡的変貌、その余りの美しさが渉の穢れ切った心を隅から隅まで綺麗さっぱり洗い流してしまったのだ。で、純粋に美しくアートとして聡美の裸体を撮りたくなった渉は、その旨を聡美に熱誠を込めて伝え、そうすれば大ヒット間違いなしと太鼓判を押すと、小さい頃から可愛がられ、伯父さんとして親しんだだけに渉を信頼し、また、渉のお陰でこの上なく綺麗になり、大学生活を送れている有難味も多大に感じていることも手伝って恩返しする意味でも乗り気になった聡美は、脱ぐことに恥を感じず寧ろ誇りを持って引き受けた。  それは至極当然のことだろう。女にとって自分の隠れた美しさを披露する。それはAV女優とは全然訳が違って真に勇気のいることでもあるが、その映像を観た人々は三十二相が揃い、女体の黄金比を実現した肢体の動作及び多彩な表情による妖艶さに悉く息を呑み、心を奪われ、渉の言う通り芸術の域に達した、それは確かに大成功を収めるに至り、AVとは似ても似つかぬ新たな一分野を切り開くことになったのである。その先駆者となった渉は、聡美を撮り続け、ナンバーワンの座を盤石にすることだろう。何故なら聡美を超えるモデルはまずもって現れっこないから…。
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