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肩の力が良い感じに抜けて私の表情筋も緩んだのか、桐野君の方を見て自然と笑顔になる。
「たまには力を緩めた方がいいかもね。そういえばさっき何か言いかけてなかった?」
『相田さん真面目やしまた頼まれ事されるかもしれへんから、その時は……』という桐野君の言葉をふと思い出し続きを聞いてみた。
まぁ話を遮ったのは私なんだけれども。
「違う」
「違う?」
何だか桐野君の様子がおかしい。
「さっきはまた頼まれ事されるかもしれへんから、その時は気軽に周りの仲間に頼りぃなって言おうと思ったけども」
「思ったけども?」
「あかん! 周りじゃなくてまず俺を頼って……マジこんなん反則や」
よく分からない事を言いながら、桐野君は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
「桐野君、大丈夫?」
私もしゃがみ込んで桐野君の顔を覗き込むと、桐野君は耳まで真っ赤になっていた。
「相田さん、さっきまでクールやったのに、ちょっと伸びて肩の力抜いたらフニャって笑顔……そんな可愛いギャップ見せられたら、男はみんな惚れてまうやん」
「えっと、桐野君が何言ってるのかちょっと理解できないんだけど」
私がキョトンとしていると、桐野君は赤い顔のまま私の頭に触れた。
「とにかく、何かあったら一番最初に俺に声かけてな。あと、朝練中に教室から外を見てる相田さんを見つけて手降ったの俺だから」
私が「え、何で?」と言ったところで桐野君は勢いよく立ち上がり、「約束やで」と言葉を残して準備室を飛び出した。
廊下は走ったらダメと言おうと準備室のドアから顔を出したけど、すでに桐野君の姿はなかった。
「早っ。朝、私に手を振ってたんだ。よく三階の教室にいるのが私だって分かったな」
恋愛に疎い私には桐野君の行動や言葉の意味が分からないままだけど、とりあえず私の毎朝のルーティンに腕を伸ばして肩の力を緩める事と、また朝練中に教室に手を振っている桐野君を見かけたら私も手を振り返してみようと思う。
ー END ー
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