大下和茂(高校生時)

4/17
前へ
/119ページ
次へ
 「ちょっとほんとごめん、ちょっとだけ待って」  僕は、その場で待ってもらうようにそう言っていたが、大下くんが近づいてきて、僕の肩を掴んで後ろを向かせた。僕の泣き顔を見ると、大下くんの顔色が変わって、さらに謝ってくれた。  「奈生ちゃん、ごめん。本当にごめん。部活の対抗試合の段取りを決めるの、急遽今日になっちゃって、しかもめちゃ時間かかってん。」  「全然気にしてないよ。これ(涙)は違うねん。ほんまに違うねん」  違うねんと言いながら、理由を考えている時、大下くんは僕を抱きしめてくれた。爽やかな香りがした。  …ほんとにごめんな。  「ううん、僕こそこんなことで泣いてしまってごめんなさい」  抱きしめられながらのごめん合戦はしばらく続き、ようやく僕は落ち着いて来た。  大下くんは僕が落ち着いたと見ると、僕のおでこを持って自分のおでこをくっつけてきた。パンダ顔が迫ってくる。  「でもさ、奈生ちゃんさ、俺LINEしたんだよ?」  「へ?」  僕は慌ててスマホを見るとなるほど通知が来ていた。見ると、10分ごとに遅れるとメッセージが入っていた。30分過ぎたときには、かなり遅くなるから日を改めよう、悪いけど今日は中止にしよと書かれていた。  「わぁぁぁぁ!ごめんなさい!全然スマホ見てなかった〜!」  大下くんは、わざとらしくプイッと口を尖らして上目遣いで僕の方を見ていた。その様子が可笑しくて笑っていると大下くんも笑いだしていた。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加