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パンドラの箱
私には、忘れられないと同時に、忘れたい過去がある。
その強烈な記憶を忘れたくて、私は自分に暗示をかけ続けた。
ねえ、覚えてる?——。
「忘れなきゃ、忘れなきゃ……」
あの人が言ったから。
今見たことは誰にも話しちゃいけない。
全て忘れるんだ。
じゃないと、私は殺されてしまうから。
幼い頃の私の記憶。
記憶の奥深くに封じ込めたパンドラの箱。
決して開かない、開いてはいけない。
「新しく来た先生、かっこいいよね」
「ああ、北野先生ね」
キャッキャっとはしゃぐ友達。
イケメンを見るといつもこれだ。
私は恋や恋愛に興味ないけど、あの先生のことは何気に気になっていたりする。
そんなこと言おうものなら友達にからかわれるだけだから言わないけど、あの先生を見たとき鼓動が高鳴ったんだよね。
今までに感じたことのないこの感覚は、きっと恋なんだと思う。
とはいえ、先生が生徒を相手にするはずないし、初恋は実らないってのは本当らしい。
よりによって先生に恋するなんて、私は年上好きだったんだろうか。
私は高校生で、先生は見た目的に三十代といったところだろう。
「ちょっと、話聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
友達の話に付き合わされた一日。
飽きっぽいから直ぐに他のイケメンに目がいくだろうけど、まだしばらくは先生の話をされそうだな。
なんて考えながら廊下を歩いていると、北野先生に呼び止められた。
どうやら次の授業で使う物を運ぶ手伝いを頼みたいらしく、私は頷く。
先生と向かったのは、授業で使われる教材が置かれた場所。
先生は電気をつけると、今日使う教材を出してその一部を私に任せた。
「持てますか?」
「はい、このくらいなら平気です」
二人でまだ誰もいない教室に教材を運び込むと、先生は笑みを浮かべ「助かりました。ありがとうございます」と言う。
その笑顔にまた鼓動が高鳴る。
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