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秋(寧音編)
受験が近づいて来て、少し頑張り過ぎたのかもしれない。朝目が覚めたら頭が重たくて、身体もじんわりと熱いことに気付いて、やってしまったと思った。案の定発熱していたから学校を休むことにした。
薬を飲んでお昼まで寝ていたら何か物音がして目が覚めた。両親は仕事で家には私以外誰もいないはずなのに……。まだ怠さの残る体を何とか起こして恐る恐るリビングルームへ向かうと、そこにいたのは。
「あ、おはよう寧音」
「……どうしているの」
そこにいたのは志希ちゃんだった。お洒落で派手な私服にシンプルなエプロンをしているのがちぐはぐに感じる。
「寧音ママから寧音が熱出した連絡あってさぁ。一人じゃ寂しいかと思って来てあげたよ~……って嫌そうな顔しないの。おかゆ作るけど食べられそう?」
黙って頷くと「持ってくから寝てて」って優しく言われてたから大人しく従って部屋に戻る。そういえば志希ちゃんは私のママと仲が良かった……余計なことを。
「――お待たせぇい。寧音ちゃんの好きな玉子粥ですよー」
ベッドで静かに寝ていたらドアを開けて志希ちゃんがやって来た。志希ちゃんはいつもと同じテンションなのに、こちらが弱っていると余計に高く感じて疲れる。
「はい、あ~ん」
「……自分で食べられる」
「あ、フーフーして欲しかった?猫舌だもんねぇ」
「わかった……もういいから、早く食べさせて……」
「はーい。ほら、あ~ん」
従わないと終わらないと思ったから素直に食べさせられていた。ちゃんと美味しいのが憎たらしい。
「……ごちそうさまでした」
「これだけ食べられたら大丈夫そうだね。アイスとかも買ってきたけど食べる?」
「お腹いっぱい」
「そ、じゃあ薬飲んで寝ようか」
「うん」
「じゃあお姉ちゃんが添い寝してあげよう」
「やめて」
やめてと言っているのに志希ちゃんは勝手にベッドに上がってきていた。
「風邪移るの心配してくれてるの~?平気だよぉ、丈夫だから」
「そんな心配してない」
「むしろ移してみる~?」
「それ以上近づいたら怒るよ……はぁ、疲れる……」
「ごめんごめん、だって会うの久しぶりだからさぁ」
「……今日は何もないの?」
「ん?午後に講義あるよ。あ、でも安心して?寧音が寝付くまで居てあげるからね」
「別にもう帰っていいよ」
「またまたぁ~。それよりそのぬいぐるみ何?そんなの抱いて寝る子だったっけ?」
「教えない……ねぇ志希ちゃん」
「んー?何?」
「大学楽しい?」
「うん。とっても楽しいよ。でもその話は長くなるから元気になったらしようね。ほら、もうおやすみ」
「……うん」
目を閉じて少し経つと頭を撫でられる感覚がした。そういえば小さい頃にお互いの家にお泊りしていた時は、志希ちゃんが寝つきの悪い私を寝かしつけるために頭を撫でてくれていた。
「……ありがと……お姉ちゃん――」
次に目が覚めた時には志希ちゃんの姿はなかった。体調は随分と回復していた。スマホの通知を確認していたら、晴琉ちゃんが志希ちゃんからぬいぐるみを抱いて寝る私の写真が届いて喜んでいるメッセージがあって、厄介な“お姉ちゃん”にお礼を言ったことを後悔した。
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