I love you

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I love you

 知らない場所のはずなのに、どこか懐かしい気がして立ち止まる。  駅から数分で海が見える道に出たら、潮の香りがする風が頬を撫でた。  約束の時間までは、まだ十分余裕がある。  逸る気持ちを抑えるように、胸に手を当てた。  風になびいた髪を、もう一方の指で耳にかける。  あれから三年、長いようで短かった。あと少し……  あと少しで会える。 ※※※  中学三年の春、もっと英語が出来るようになりたいと思った。一年の時からもっと勉強しておけば良かったと後悔もした。もしも、英語の成績がずば抜けて良かったなら--あるいは、全く出来ずに毎回赤点を取るような成績だったなら--貴女の、その澄んだ瞳に私が映っただろう、貴女の記憶の片隅に残っただろう。  初めての授業の時にそんな事を考えていたなんて、貴女が知ったらどう思うだろう。  私の成績は中の上、そう並だ。なんの変哲もない。  私にとっては英語担当の教師は一人だけれど、貴女にとっては数いる生徒の一人でしかない。  どう頑張っても、一目置かれるような成績を取れるとは思えない。かと言って、わざと赤点を取って補習を受けるような勇気もない。  授業中は、堂々と貴女を見つめられる時間。  長く伸びた黒髪が、潤んだ瞳が、流暢な発音と共に動く唇が、チョークを持つ細い指が。全てが堪らない。  見つめ続けていると、ごくたまに視線がぶつかりそうになる。貴女は平等に、生徒一人一人に視線を送るから。そんな時は、恥ずかしいから俯いて教科書を読むふりをして、その後は窓の外へ視線を逸らす。再び貴女を見れば、もう他の生徒を見つめている。  そんなことを繰り返し、一回目の定期テストを終えた。頑張ってはみたが、やはり成績は少し上がっただけだった。  とある授業の終わりに貴女が言った。 「みんなに配るプリントを忘れてきちゃったので、日直の人はこの後職員室まで取りに来て」  え、日直。私だよ?  ドキドキしながら足を運んだ。 「あの……」  職員室へ入ることよりも、貴女への第一声が。  貴女は私を正面から見つめて、ニッコリと笑った。 「あ、日直さん?」  あぁやっぱり、名前覚えられてないんだなとチラッと思ったけれど、そんなことよりこんな近くでバッチリ目が合って恥ずかしさがMAXで。  それなのに貴女は。 「このプリント、配っておいて。あとこれ、飴ちゃんあげる」 「はぁ」  子供か。 「あれ、飴ちゃん嫌い?」 「いえ、好きです」  貴女がね。 「ふふ、良かった」  その笑顔は反則ですよ、先生。  それから、時々授業後に用事を言いつけるようになった貴女。  何故か私が日直の時が多くて、その度にお菓子をくれた--グミだったり、クッキーだったり。  内心では嬉しいのだけど表情には出せないでいたら、貴女は、何が好きなのかしらと呟いていた。
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