裏切りと諦め

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裏切りと諦め

「おかえりなさい」 「ただいま」 「……遅かったね」 「仕事、忙しいんだよ」 「ご飯は?」 「食ってきた。風呂入ったらもう寝るわ」 「分かった」  深夜、一時を過ぎた頃に夫の小西(こにし) 貴哉(たかや)が帰宅した。  最近帰りはいつもこれくらいで、本人曰く『仕事が忙しい』らしい。  だけど私は知っている。  こんな時間まで仕事をしていない事を。  他に、女の人がいる事も。  それに気付いたのは、今から約半年前の事だった。  スーツのポケットからレシートが出て来て、そこにとても綺麗な文字で『早く別れろ』という文字が書かれていたから。  いくら恋愛に疎い私でも、これが何を意味しているかくらい分かった。  貴哉には私の他に女がいるんだって。  それを知った時は、不思議と悲しくは無かった。  だって、私たちは政略結婚。  家の為にお見合いして、流れるように身体の関係を持って、そのまま結婚する事になっただけだから。  そこに愛なんてものは無かった。  それは貴哉も同じなんだと思う。  だから、悲しくは無かったけど、悔しくはある。  私には自由をくれないくせに、自分だけ、外で好き勝手やっているのだから。
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