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ここには大きな樹木が立っている。 そこに大きは大きな大きな実がぶら下がる。
そんな日には人々はこぞって集まってくる。 そんな有名な実。それは必ずその日、その月に実らせるようなものではない。 いつ実るかなんて誰にも分らない。だからそこでは名物のような扱いであった。
その実はけっして花を咲かせることはない。美しいとも言い難い、それでもその実はただ人々を綻ばせるものであった。
「おいおい、ジョンソン。 またそんなことして人様にぶつかるぞ。 」
「人様に迷惑をかけてはだめよ」
笑いながら道端で戯れる一家。 おしゃれをして街を歩く沢山の人。蒸気が舞い、車が行きかう道路は賑やかで、そしてそれを避けるように通る人もいた。 幸せそうな家族の日常。
まるでお祭りの様に人が行きかう大通り。ここはいつも賑やかで活気にあふれている。この沢山の人種が集まってできた国は大変経済の発展に恵まれていた。 成長期である。
休日になれば人々はこぞっておしゃれして出かける。 今のはやりはスーツに女性はワンピース、 そして鍔が一周してついているちょっと背丈の上がった帽子。当然すべての道行く人がそうではないが、ほとんどがそんな人たちが通っている道。
人々があふれかえっているのだ。ぶつかり合ったり当たる事は度々ある。だがその度にお互いが相手を気遣って謝りあう。そんな光景は感じの良いものだ。紳士的とでもいうのだろうか。敬意を感じられた。
そんな人ごみの中、笑いあっていた一家と肩がぶつかる。
この町にもその木はあった。何処にでもあるその樹木には有名な実が実る事がある。
当然名物であるその実は、皆それを見ると集まって写真を撮るほどだ。
それぐらい知る人には有名な実で、ある人たちはそれを奇妙だと呼んでいるのも聞いた。
その実はそこら辺にみのる実よりも、それはそれは大きく、黒い。そんな実が見れた者ならお祭り騒ぎになる程だった。
私は取材をする為この地に赴いた。 現地に行っていた私の友人、と言っても彼の地元でもあるんだが、その彼が連絡をよこさなくなってしまったからその調査もかねてだ。
ぶつかった人はとても大層に何度も深々と頭を下げた。
それを見るや見ないや。一家はその人に殴りかかった。 謝るなどは関係がなかった。ここではぶつかった方が問答無用で悪く、その報いを受けるものが正しいと言わんばかりに集団でのタコ殴りを受けている様だった。
「お前、なんてことをするんだ!! 当たっておいてすみませんですむかぁぁぁ」
男は声を張り上げていた。
道路は楽しそうに行きかう人たちや、沢山の乗り物、店や演奏する人たちでいっぱいだったからか、人々はそれを気づきもせずに己が目的地を目指していた。 誰も顔色を変える者はおらず、止める者等いない。それが当然の様に見えた光景だった。 世界にはいろんな国が、人があるものだ。
4月16日。 経過日記・どうやらこの町は家族愛が強いらしい。 ここに何日か滞在してみて、そんな日常は何度か見る。 どうやら、この町にはこの町の価値観が、ルールがあるらしい。そして自分の大切な身内は何としてでも守ると言ったところだろうか・・・
「おい!!見ろよ!! あそこにまたぶら下がっているぞ!!」
とある一家の亭主が嬉しそうにそれを指差して、伝えた。 その先には溢れかえる様に我先に見んと人の塊ができていた。 発見した亭主の一家も急いでその群衆の中に駆け寄っていく。 その姿はとても嬉しそうで、そんな皆で取った一枚の写真が、今日も記念館に飾られている。 人々が嬉しそうに集まるその写真の上には、その大きな大きなその実が映っている。
それは、手紙を書くためのはがきにもなっていた。
4月28日。 経過日記・この町で大分友達ができた。 皆いい人が多く。パーティーにも呼んでくれる家庭が多い。相変わらず友人の情報は何もないが・・・。
今日も私が落としたハンカチを、わざわざ急いで走って届けに来てくれた子がいた。とても嬉しかったものだから、カールのお店で好きなお菓子をお礼した。
ただあんなに優しい人たちが何故あんなに豹変するのかそこだけが私には理解しかねる処である。 今度は勇気をもって止めてみたいものだ。
ここに一つのお店があった。ルーシーとカールが夫婦で経営する小さなお店でコンビニのようなお店だ。 彼らはとても気さくな人で、コンビニとは言ったが、この地区の人にとってはス―パの様に食材を必要とする人が買いに来る場所でもある。 また夫婦も人気者のようで、話に来ている人もいるほどだ。 特にルーシーは白く透き通ったような肌をしており、金色の髪がとてもきれいな見た目の人で、男であれば目を引くような存在であった為、実際ルーシー目当てで訪れている客も多い。
今日もまたとある一人の男の子がお菓子を買いにやってきていた。
ただそれが良くなかったのか、何故そう思うのか、夫婦はその子に怒りだしてしまったのだ。
警察がやってきて、
その男の子が自分の妻を色目で見ていたと夫は主張していた。町の人たちは一緒になってそれを守っただけだと。
彼らの言い分は私には理解できなかった。 だけどこの町の人たちは、夫婦の行いこそが正しいといういのだ。 どの人も皆、夫婦に非は全くないと。当然の様に。
警官も話を聞いてそれはその子が悪いという事でこの事件は終わってしまった。
街のひと騒動とはお構いなしにまた名物の実はその町の木にみのりをつけぶら下がっていた。それはそれは大きな真っ黒なこんがり焼けた実だった。
その実とそこに移る大勢の人の写真は裏にメッセージをなぞってカールとル―シの両親の下に手紙のとして送られていた。
『今日はスカッとしたよ』
真ん中に堂々と映るルーシーとカール、それを称えるように映る町の人たちと共に撮られた写真の裏にただそう一言書いてあったらしい。
その実を見つけた人々はまるで嬉しそうに、楽しそうにそこに集まっては騒ぐ。それがこの町の楽しみでもある様に。
私には近づく事すらできなかった。 その実がとても恐ろしく見えてしまうからだ。
私は奇妙と言う人の言い方の方がしっくり来ていて、その楽しそうな群衆に参加したいとは到底思えなかった。 私はただ、道路を挟んで遠目でそれを見て立ち尽くしていた。 これが私が初めて見たおぞましい実である。
私の横に一人の男の子が立っていた。 私と同じ位置からその実をじっと見つめて、真顔で一言だけ言葉をはいた。私はその言葉が頭から離れなかった。いや、その光景事態が私には耐え難いものなのだが。
彼は町の人達とは一緒に盛り上がらず、そこに参加することもなくぼそっとこう言ったのだ。
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