2章11 馬車の中で

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2章11 馬車の中で

「2人で一緒に帰るのは久しぶりだね」 馬車が走り出すとすぐにリオンが話しかけてきた。 「そうね。私とリオンの家は途中から道が別れるし、それに……リオンには友達が沢山いるから」 ゲーム中のリオンは孤独だった。だけど今の彼は常に友人たちの輪の中心にいる……そんな存在になっていた。 「友達が作れたのはユニスのおかげだよ。ありがとう」 笑顔を向けてくるリオン。 良かった……誕生パーティーの件で何か責められるのではないかと思っていたけれど、この様子なら……。 「ところでユニス。今日一緒に帰ろうって誘ったのは理由があるんだ。それは何か分かるよね?」 そんな事を考えていると、いきなりリオンに尋ねられた。 「え? 勿論。誕生パーティーの件……でしょう?」 「そうだよ、ねぇ。どうしてあんな無謀な勝負を受けたの?」 「無謀って……」 「ユニスがロザリンに試験で勝てるはずないじゃないか。彼女はクラスでも常に上位の成績を取っているんだよ? だけどユニスは……」 口に出しにくいのか、リオンが伏し目がちになる。 「そうよね、リオンはSSクラスでロザリンもそう。だけど私は一般クラスの真ん中で、パッとしない成績だものね」 私は魔法が使えない。それに6年後にはヒロインが現れる。リオンの側にいるわけにはいかないし、目立つわけにもいかない。 だから、試験では手を抜いていたのだ。 「分かっているなら、何であんなことを言ったの? 確かに誕生パーティーにはクラスメイトたちを全員呼ぼうかとは思っていたけど……だからと言って、別にユニスを仲間はずれにするつもりなんか無かったよ」 リオンのクラスメイトが全員集まれば、私は阻害されるに決まっている。何しろ私は一般クラスでSSクラスの人達からみれば、ずっと格下なのだから。 リオンはそれを分かっていないのだろうか? 私は別に仲間はずれにされたって、気にしない。 そもそも、そんな子供じみた理由で拒否していると思われていることが嫌だった。 この日は、リオンの魔力暴走が起きて危険だから招待するのを反対しているのに。 彼に真実を告げられないのがもどかしかった。 すると……。 「でも本当は仲間はずれにされると思って、そんなことを言ったわけじゃないよね?  だってユニスは大人だもの」 「え……?」 まさかリオンが私のことを理解してくれていたなんて。そのことがすごく嬉しかった。 「ユニス。本当は別な理由があったんじゃないの? だからロザリンにあんなことを言ったんでしょう?」 じっと私の目を見つめてくるリオン。 だけど、本当の事を言うわけにはいかない。言ったところで信じてなどもらえないだろう。 「……ねぇ、リオン」 「何?」 「魔法学の先生に聞いたのだけど……この間、薪に火を起こす試験でクラス全員の薪を燃やしてしまって大火事になるところだったんですって?」 「え? 知ってたの?」 リオンの目が見開かれる。 「うん、驚いた……わよね?」 「それは驚いたよ。あの時、火をつけようと集中していたら突然身体の中が熱くなって魔力が抑えられなかったんだ。それで並んでいた薪が一気に燃えて危うく火事になるところだったんだよ。あの時は……本当に怖かった」 リオンは自分の両手を見つめた。その手は……小さく震えている。 そこで私はゲーム内での知識を伝えることにした。 「あのね、リオン。何かの本で知ったのだけど、成長すると魔力も強くなるんですって。だけど身体の成長が魔力の成長に追いつかないと、魔力を抑えられなくなることが……あるみたいなの」 リオンの魔力暴走を匂わしておけば、何か役立てるかもしれない。 案の定、リオンは私の話に驚いた。 「え? そんな事があるの!? 少しも知らなかったよ……だけど、そのことと誕生パーティーでクラスメイトたちを呼ぼうとしていたことと、何か関係があるの?」 「え? それは……別に無いわ。ただ、今話をしていて突然先生の話を思い出したの。ほら、最近こんな風に2人で話をする機会が無かったじゃない?」 「確かにそうだったね。お互い違う友達が出来たから仕方ないよ。今はクラスだって違うし」 「そうよね……」 「それにしても……どうして僕に相談もしないで、勝手にそんなこと決めてしまったのさ」 「え?」 確かに勝手だったかもしれない。だとしたら、リオンが私に一言の相談もなく婚約解消してほしいと言ってきたことは勝手ではないのだろうか? 「両親からは、絶対にユニスを誕生パーティーに呼ぶようにって言われているのに……」 溜め息をつくリオン。 どうやら彼の中では、私は確実にロザリンに負けてしまうと決めつけているようだ。 私は絶対にロザリンに勝つつもりでいるのに。 「……だったら、おじ様とおば様には私が誕生パーティーに参加するって伝えておいてくれる。当日になったら、風邪を引いて参加できなくなりましたって連絡を入れるから」 「そうだね、それは良い考えだ」 私の言葉にリオンが笑う。 「ええ、良い考えでしょう?」 スカートの裾をギュッと握りしめて、無理に私も笑った――
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