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3章9 秘密の共有者
「アンディが……私の正体を知っているの?」
「そうだよ。君はクラリスであり、そしてユニスだったことをね。何しろ6年前、君がリオンを連れて林の入口で倒れていたところを発見したのは彼だっただろう?」
「ええ。兄から聞いているわ」
「その時には、既に今の姿に変わっていた。ついでに言うと、首の後ろに出来た刻印も見られていたのさ」
フレッドが続きを教えてくれた。
「そうだったの……」
「だから、魔術師教会は彼にも君の情報を提供することにしたんだよ。記憶操作をすることも考えたらしいけど、あれは完全な物では無いからね。だったら始めから事情を説明しておこうってことになったんだよ」
セシルの話を聞きながら、私は壇上でスピーチをしているアンディを見つめた。
『ニルヴァーナ』のゲーム中でも、アンディは他の攻略キャラよりも好感度が比較的上がりやすかったし、始めから親しげだった。
もしかすると、それはクラリスの内部事情を知っていたからなのだろうか?
それと同時に、もう1人の彼を思い出した。
「……ザカリーはどうしているのかしら……」
「ザカリー? 誰だ? この大学にいるのか?」
フレッドが尋ねてきた。
「ザカリーは、リオンが魔力暴走を起こした時に一緒に居合わせた人なの。彼は水魔法が得意だったから、アンディとザカリーを誕生会に呼んだのよ。2人がいてくれなかったら、どうなっていたか……」
「何だかまるでリオンの魔力暴走が起きるのを知っていたような口ぶりだな」
「それは……以前に授業中にリオンが火事を起こしそうになったことがあったから念の為に、2人にも参加してもらったの。あの時の私は魔法を全く使えなかったから」
「なるほど。だからクラスも違うのに、彼らはリオンの誕生会に参加していたのか」
セシルが納得したかのように頷く。
「ええ、そういうこと」
一体、セシルとザカリーは何処まで事情を知っているのだろう?
まだ私の魔力は安定していないものの、この3ヶ月間の訓練のお陰で簡単な魔法なら使えるようになっていた。
そして今は密かに治癒魔法が使えるように訓練をしている最中だった。
ゲーム中のクラリスは治癒魔法を使うことが出来た。ただリオンの火傷の傷跡までは治すことが出来なかった。
今思えばリオンがクラリスに執着したのは、彼女が治癒魔法を使えたからなのではないだろうか?
だからヒロインを監禁までして自分の思いを強引に遂げて、クラリスを壊してしまった……?
私は壇上でスピーチをするアンディを見つめながら……スカートを握りしめた――
****
入学式が終わり、私達3人は他の学生たちに混じって大ホールを後にした。
「それじゃ、俺達のクラスへ行こう」
セシルが声をかけてきた。
「そうね」
「行くか」
3人並んで歩きながら、私はこの世界が既にゲームの中とは異なっていることを実感していた。
ゲーム中でクラリスは1人で入学式に参加し、教室へ向かっていたのだ。
そしてその途中で……。
「!」
大勢の学生たちに紛れながら一際背の高い人物が目に入り、思わず足を止めてしまった。
珍しいアイスシルバーの髪に、美しい容姿……。
間違いない、あの姿……過去の私は何度も何度も目にしてきた。
「リ……オン……」
気づけば、彼の名を口にしていた――
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