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3章10 不安な気持ち
「リオン? もしかして以前の婚約者だった男か?」
フレッドが尋ねてきた。
「そ、そう……よ」
『リオンには、関わってはいけないよ』
兄の言葉を思い出す。
彼は今の私の姿を知るはずもないのに、何故か足がすくんでしまう。
「心配することはないよ。リオンは今の君の姿を知らないんだから」
私が何を考えているのか、セシルは気づいたのだろう。
「そうよね、リオンは気を失っていたのだから知らなくて当然よね」
ましてや、あのときの私はまだ子供の姿をしていたのだから。だけどゲーム中のリオンは、ずっとクラリスに執着していた。この世界の彼はどうなのだろう?
私がユニスであり、禁忌の魔法を使ったことがリオンにバレてしまえば……魔術協会に隔離されて、一生監視下に置かれてしまうかもしれない。
それだけは絶対にイヤだった。
「大丈夫だよ。万一、リオンがクラリスに近づことしても俺達がそんなことさせないから。な、フレッド」
セシルがフレッドに声をかけた。
「ああ。だが、それは無用な心配じゃないか?」
ずっとリオンの様子を注視していたフレッドが返事をする。
「え? それはどういうことなの?」
「そうか。クラリスは背が低いから見えないか……。リオンの隣には女子学生がいるぞ」
「うん? 確かに言われてみれば女子学生と一緒にいるな」
フレッドの言葉にセシルが頷く。
「女子学生って……」
そのとき、丁度人垣の間からリオンの隣にいる女子学生の姿があった。
「! あれは……!」
女子学生はヴェールを被り、顔を見ることが出来ない。きっと彼女はロザリンに違いない。
「もしかして、あの女子学生を知っているのかい?」
セシルが尋ねてきた。
「ええ。彼女はロザリンと言う女性で、今はリオンの婚約者よ。リオンが引き起こした火事のせいで、顔半分を大火傷してしまったの」
「もしかして、その責任を取るためにリオンはロザリンという女と婚約をしたのか?」
フレッドが眉をひそめる。
「父から、そう聞いているわ。火傷の傷跡はもう二度と治ることが無いと言われているようだし」
「何だ。リオンには婚約者がいたのかい? だったらそんなに彼のことを気にする必要は無いんじゃないかな? 婚約者がいるのなら不容易に他の女性に近づいたりはしないよ」
「そうかもしれないけれど……」
セシルの言葉に返事をする。
ゲームのストーリーとは差異が生じてきているとはいえ、ここは『ニルヴァーナ』の世界なのだ。
まだ私の不安は払拭できずにいた。
幸いリオンとはクラスが離れているし、大学の新入生は1000人以上いるのだ。兄に尋ねれば、リオンがどの科目を履修するか教えてもらえる可能性もある。彼と同じ科目を撰択しなければ、卒業まで接触せずにやり過ごすことも不可能ではないはずだ。
やがて新入生たちは、それぞれの教室に入っていき……リオンもまたロザリンと一緒に教室へ入って行った。
それを見ていたフレッドがフンと鼻で笑う。
「へ〜。さすが婚約者同士、こんなに大勢新入生がいるのにクラスも一緒なんだな。学園側の配慮なのかもしれない。……もしくは女の差し金か?」
「え? それはどういう……」
意味なのかと尋ねようとしたその時。
「ちょっと待って」
背後から突然声をかけられた――
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