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1章6 説得
昼休み終了後――
教室に戻ってくると、リオンは既に席に戻って次の授業の準備を始めていた。
「リオン、親しい友達は出来た?」
席に座りながら尋ねると、何故か彼は不機嫌そうな顔を向けてきた。
「ユニス……あのハンスって男は一体何だよ」
「え? ハンスがどうかしたの? もしかして喧嘩でもしたの?」
彼はクラス委員で皆の信頼もある。トラブルを起こすようなタイプの少年では無いはずだ。
「あいつ、ユニスが全く魔法を使えない落ちこぼれだって言ってたんだ」
「え? そうだったの?」
あのハンスが、そんなことを言うとは信じられなかった。でも彼はこのクラスで魔力が一番高い。
ハンスから見れば、落ちこぼれと見られても仕方ないだろう。
この世界では、殆の人々が魔法を使うことが出来る。私のように魔力が全く無い方が珍しいのだ。
「でも言われても仕方ないのかもね」
「ユニスはそんな事言われて、腹が立たないの?」
「う〜ん……面と向かって言われたわけじゃないし……」
それに前世の記憶が蘇った今となっては、ハンスなど私から見ればお子様だ。そんな子供に言われても、別に腹が立つことはない。
「そうなのか? 僕は気に入らなかった」
リオンはふてくされたような表情を浮かべる。
「だって、魔力が無いのは事実だし」
ハンスに視線を向けると驚いたことに、彼もまたこちらをじっと見ついた。
そして私と視線が合うと、慌てて顔をそむけてしまった。
……気のせいだろうか? 何だか彼の前髪が少し焦げているように見えたのは。
「ユニスが良くても、僕は少しも良くない。だから、痛い目に遭わせてやったんだ」
「え!? 一体何したの!? あ、そう言えば今ハンスと目があった時に前髪が焦げていた気がするんだけど」
「そうだよ、あいつを黙らせるためにちょっと炎の魔法を使ってやったんだ。火の玉を手の平で作っただけで、大げさに驚いたんだぜ」
「え!? もうそんな事ができるの!?」
その言葉に驚いてしまった。
「そうだけど?」
ゲームの設定では、まだ身体が小さい子供のうちは魔力もあまり体内に留めて置けないので、小さな魔法しか使えないとされていた。
せいぜい指先に炎を作り出したり、マッチをすらずに火をつけたり……その程度なのだ。
「それは……ハンスは相当驚いたでしょうね」
「まぁね。かなり驚いていたよ。周囲にいた皆も大騒ぎになった」
「ちょっと待って、リオン。その魔法、一体どこで使ったの?」
「もちろん、食堂に決まっているじゃないか」
私は今日、天気が良かったので中庭でお昼を食べている。なので食堂には行っていない。
「食堂……食堂!? そんな、大勢のいる前で炎の魔法を使ったの!? 危ないじゃない!」
「だけどユニスを馬鹿にしたアイツを放っておけるはずないよ」
「リオン……」
やっぱりリオンは子供の頃から過激な性格だったのだろうか? だったら、私が更生させてあげないと……。
「聞いて、リオン。あなたはこの学園に転校してきたばかりでしょう? 転校初日でこんなことしたら友達が出来なくなっちゃうじゃない」
「友達? そんなもの別に必要ないよ。前の学校だって友達なんかいなかったし、お父さんからも言われているんだ。友達なんか必要ない、自分の足を引っ張られるだけだって」
「え? お父さんから?」
まさか、父親からそんな教育を受けていたなんて……。
「だったら、私もいらない存在ってことになるよね? だって、私もリオンの友達だもの」
「友達? だけど、ユニスは僕の婚約者だよ?」
「まだ子供だから婚約者と言うよりは、友達のようなものでしょう? 今の考えだと、私だって足を引っ張る存在ってことだよ」
「そ、それは……」
始めてここでリオンに戸惑いの表情が浮かんだ。
「リオン、私は皆と仲良くして欲しいの。だから、お願い。ハンスに後で謝りに行って。私も一緒に行くから」
ハンスと仲直りできれば、他のクラスメイトたちとも良い関係が築けるはずだ。
「分かったよ……ユニスがそう言うなら……」
「良かった、ありがとう」
そこまで話した時、丁度先生が教室に入ってきて話は終わりになった。
そして放課後、私はリオンを連れてハンスに謝り……彼は許してくれたのだった――
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