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5章 12 リオンの過去話
確かにここに攫われてきた当初からリオンは私に、隙を見て必ず近い内に逃がしてあげると言っていた。それがまさか今夜だなんて。
「どうして急に……?」
「これ以上君がここにいたら、ロザリンが増々暴走してしまうだろうと思ったからだよ。ロザリンに脅されて、君を攫ってきてしまったけど……本当に悪いことをしてしまったと思っている。ごめん、クラリス」
リオンが悲しそうな顔で謝ってきた。
「俺も……期待を持ってしまったんだ。ひょっとすると、君の魔法でロザリンの火傷の跡を治せるんじゃないのかって。あの傷跡を治すために、ハイランド家もロザリンの家でも必死に方法を探し回った。だけどどんなに優秀な医者でも、火傷の傷跡に効果があると言われた軟膏を探し求めて塗ってみても……結局治せなかった」
「……」
私は黙って話を聞いていた。
「いつかは治るだろうと、ロザリンは頑張って辛い治療を受け続けたよ。でも全てうまくいかずに、ことごとく期待を裏切られた。その度にロザリンは荒れていったんだ。そしてついにある医者から、この火傷痕は治癒魔法でしか治せないだろうと言われてしまった。それを聞いたロザリンは絶望して……とうとう壊れてしまった。治癒魔法を使える人物は、もう何百年も現れていなかったからね」
そしてリオンは顔を伏せた。
「少しでも気に食わないことがあれば、怒りを爆発させて当たり散らすようになってしまった。ロザリンの両親はそんな彼女に手を焼いて、もうこれ以上娘の世話をすることは出来ない。あんな火傷を負わせたのだから責任を取れと言われて、ハイランド家でロザリンを預かるようになったんだ。俺の婚約者としてね。……ロザリンは家族に捨てられてしまったんだ……全て俺のせいだ。だから何とかしてやりたかった」
「リオン……」
肩を震わせているリオンは、まるで泣いているようだった。
「クラリスは確かに治癒能力がある。何しろ俺の怪我を治せたんだからね。でもロザリンの火傷を治すのは無理なら……ここにいては駄目だ」
「本当に、私を……逃がしてくれるのね?」
「ああ。その為に、アンディたちに協力してもらう」
「え? 何故アンディたちに?」
その言葉にドキリとした。
「君をこの屋敷に攫ってきてから、俺とロザリンは一度も学園に行っていないんだ。だけど今日は学園へ行く。ロザリンの隙を狙って、アンディたちに君がここにいることを伝えようと思う。俺1人で君を逃がすことが出来ればいいけど……無理なんだ」
そのとき、私はロザリンの指輪のことを思い出した。
「ねぇ、リオン。ロザリンがはめている指輪は、一体何?」
「あれは……恐ろしい呪いの指輪だ。服従させる相手の血をほんの少し染み込ませている。そして指輪をはめた人物の言う事をきかなければ……」
リオンは自分の首に触れた。
「首をしめつけられてしまうんだ。俺だけじゃない、両親も指輪の呪いを受けている。それに、君の血も指輪に染み込まされている」
「え!? わ、私……も…?」
思わずゾッとして自分の首に触れた。
「君はここに攫われてきたとき、意識が無かった。そのときロザリンが指先から血を取ったんだ。俺は反対したけど指輪の呪いで止められなかった。だけどクラリスには何故か指輪の力が及ばないってロザリンが話していた」
「あ……そう言えば……」
そうだ。言われてみれば、私もロザリンに指輪を向けられたけど、何ともなかった。ただ、首の刻印が熱く感じられただけだった。
「やはり、それは君が光の属性だからだろうね。指輪の呪いが効かなくて本当に良かったよ」
リオンはこのとき、初めて笑顔を見せた。それは6年ぶりに見る彼の笑顔だった。
そしてすぐに真剣な顔になる。
「指輪の呪いを受けている俺1人では、君を逃がせない。大学へ行ってアンディたちに正直に話して協力してもらう。それまで、ここで待っていてくれないか?」
「分かったわ……待っている」
ロザリンの呪縛で苦しめられているリオンを見捨てるようで気が重かったけれども兄やセシルたちからは関わらないように釘を刺されている。
私には治癒能力は無いのだから。
それなのに……私はロザリンに取り返しのつかないことをしてしまう。
そして、エイダの秘密を知ることになる――
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