取材

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22時を過ぎ、ほとんどの社員が退社したあとも、倉木は黙々とデスクで残業をしていた。 コーヒーでも飲もうと休憩室に向かうと、プライベートのスマートフォンにメッセージが届いているのに気づいた。 件名に「谷崎です」とある。 恐らくハンカチのことだろうと思いながら、メッセージを開く。 『こんばんは。谷崎 ハルです。 先日はハンカチをありがとうございました。 来週の金曜日、TVジャパンでバラエティ番組の収録があります。 13時入りなのですが、少しお時間頂いて、ハンカチをお渡し出来ればと思います。 ご都合はいかがでしょうか? お返事よろしくお願いいたします。 谷崎』 相変わらず真面目だな、と思ってから、ん?と首をひねる。 (来週の金曜日?それって、特番かな?) その日は、ドラマのワンクールごとに収録されるNGシーンを集めた恒例の特別番組があり、MCを倉木と女性アナウンサーの二人でやることになっていた。 (あ、そうか。谷崎さんのドラマがうちで放送されてるからか) デスクに戻り、収録の台本をもう一度よく見てみると、各ドラマや出演者の名簿に谷崎 ハルの名前もあった。 やっぱりそうか、と思いながら、谷崎に返信する。 『こんばんは。倉木です。 遅い時間に申し訳ありません。 ご連絡ありがとうございました。 来週の金曜日の収録は、私もMCとして参加いたします。 その時にお会い出来ると思います。 どうぞよろしくお願いいたします。 倉木』 送信するとすぐに既読になり、程なくして返事が送られてきた。 『ひゃー!倉木さんがMCなんですね? どうしよう、緊張します…。 お手柔らかにお願いいたします』 え?なんで俺だと緊張するの?と、倉木は首をひねる。 (もしかして俺って、変な質問するアナウンサーだと思われてるのかな?) そう思いながら入力する。 『かしこまりました。谷崎さんが返事に困るような質問はしないように気をつけます。 私では力不足かと存じますが、どうかよろしくお願いいたします。 いつもTVジャパンにご出演頂き、ありがとうございます』 するとすぐさま返事が来た。 『あああ、あの、そんな、違うんです。誤解です。倉木さんは素晴らしいアナウンサーでいらっしゃいます!』 …は?と、倉木は目が点になる。 これはいったい、どういう流れなのだ? なんと返事をすれば? 文字のやり取りとは、難しいものだ。 取り敢えず、今は話を広げないでおこうと、 『ありがとうございます。 それでは当日、よろしくお願いいたします』 とだけ書いて送信した。
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