お揃いの気持ち

3/3

2042人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
「すみません!私、倉木さんにお渡ししたハンカチとお揃いの物を勝手に持っていて…。気分良くないですよね?本当に申し訳ありせんでした」 しばらく沈黙が続き、ハルがますます身を固くした時、倉木のためらいがちな声がした。 「それなら、俺も謝らなきゃな」 え?とハルは顔を上げる。 「このハンカチを拾った時、すぐに君のことを思い出した。俺にプレゼントしてくれたハンカチと、お揃いの物を持ってくれてるんだって、嬉しくなったんだ。勝手に喜んでごめん。気分いいものではなかったかな?」 「…はい?」 ハルは思考回路が止まったように、何も考えられなくなる。 「どうしてですか?私がお揃いのハンカチを持っていると、なぜ倉木さんが嬉しく…?」 「んー、そうだな。多分、君と同じ理由だと思う。君が俺とお揃いのハンカチを持っている理由と」 「私の理由ですか?それはだって、私、倉木さんが…」 好きだから、と言いそうになり、慌てて口をつぐむ。 「いやいや、絶対に同じ理由ではないですよ」 「どうして?」 「だって、あり得ないからです」 「俺が君を好きなことが?」 サラリと口にする倉木に、思わずハルは目を見開いた。 「く、倉木さん。いったい何を…」 「ハンカチがお揃いなら、気持ちもお揃いだと思ったんだけどな。違った?」 「え、えっと、何が?」 「俺が君を好きだって気持ち。君とお揃いじゃない?」 倉木に真っ直ぐに見つめられ、ハルは考えるよりも先に言葉にしてしまう。 「私も、あなたが好きです」 「そっか。それならやっぱりお揃いだ。良かった」 嬉しそうに笑いかけてくる倉木に、ハルはただポーッと見とれる。 「また連絡するね。お疲れ様、気をつけて帰って」 「え?あ、はい」 まるで何事もなかったかのようなやり取りに戻り、シュルシュルとハルの気持ちがしぼんでいく。 (あれ?さっきのは空耳だったのかな…) 確か、俺が君を好きで、私もあなたが好きで…みたいな話、しなかったっけ? ハルが首をひねっていると、ドアに向かおうとした倉木が思い出したように振り返った。 ハルのすぐ前まで来ると、身を屈めて耳元で囁く。 「今日からよろしくね。俺の彼女さん」 「はっ?!」 思わず素っ頓狂な声を出してしまい、ハルは真っ赤になる。 そんなハルにクスッと笑うと、倉木はハルの左の頬に軽くキスをした。 「じゃあね」 手を挙げて部屋を出て行く倉木を呆然と見送ったハルは、慌てて両手で左頬を覆う。 「ど、どうしよう。もう左のほっぺた洗えない」 倉木の唇の感触を思い出し、夢じゃないよね?と自分に確かめ、ハルは顔を真っ赤にしたまま立ち尽くしていた。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2042人が本棚に入れています
本棚に追加