驚きの展開

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「可愛い!泳いでる!」 隣のホールに行くと、空間いっぱいに広がる湖の映像に、由良が描いた魚の絵を投影する。 命を与えられて元気良く泳ぎ始めた魚を、由良は笑顔で追いかけた。 捕まえようと手を伸ばすと、反応した魚がパシャンと水面から飛び上がる。 「ひゃー、すごい!跳ねた!」 由良は次々と絵を書いては湖に投影し、その度にはしゃいだ声を上げていた。 「次はね、鯉のカップル!」 そう言って、ピンクと青の2匹の鯉を描く。 「仲良く泳いでねー」 泳ぎ始めた2匹の鯉は、ハートマークを挟んで見つめ合ったまま泳いでいく。 「あはは!仲良し。恋する鯉!」 「恋する鯉?上手いね」 由良はカーペットの床にペタンと座り、たくさんの生き物達が泳ぐ様子を眺める。 「素敵ね。ここにはケンカとか嫌なことは何もないの。ただ、幸せと笑顔が溢れる輝く世界。こんなに素晴らしい世界を作り出せるなんて、透さんはすごいね」 大きなホールに、由良の小さな呟きが響く。 「私ね、キラキラした世界に憧れてたの。綺麗な衣装を着て、いつも笑顔で楽しそうなテレビの向こうの芸能人に憧れてた。あんなふうに、輝く世界に入りたいなって。でも今は、そんなふうに思えない」 透はそっと由良の横顔を見つめる。 由良は顔を上げて湖の魚達を見ながら、寂しそうに微笑んでいた。 「モデルとか、イベントコンパニオンをしてると、現場で嫌な思いをすることが多くて。控え室なんて、雰囲気最悪。他のモデルさん達みんな、こーんな険しい顔してドレッサーを陣取ったり、挨拶しても無視されたり。それなのに、いざ現場に行くとコロッと態度が変わって、よろしくねえって腕組んできたりするの。おい!って感じ」 由良は大げさに顔の表情や声色を変えながら、面白そうに話すが、透は笑えなかった。 「今までどんな仕事の依頼もOKにしてたけど、これからは模擬挙式のブライダルモデルを中心にしようかなって思ってて。それだと、他のモデルさん達と一緒にはならないから。まあ、相手役の男性とキスしなきゃいけないけど」 えっ!と透は思わず声を上げる。 「そうなの?」 「うん、多分。せめてほっぺたにしてって希望は一応言ってみるけど、唇にキスした方が喜ばれるんですって。いかにカップル達をうっとりさせられるかが、ブライダルモデルの役目だから」 「そ、そんな!好きでもない相手とキスするなんて…。それにウェディングドレスだって、女の子は一生に一度って夢見るものなんでしょ?」 「透さん、夢で人生食ってけないですよ?」 淡々と答える由良に、透はますます前のめりに訴える。 「でも由良ちゃんには、そんなふうに割り切って欲しくない。明るくて可愛くて、無邪気で素直で。そんな由良ちゃんなら、きっと寂しくなるんじゃない?本当に好きな人との結婚式に取っておきたかったなって」 「うーん…。そんなふうに夢見る時期は過ぎちゃったかな?もういいやって。大事に自分の気持ちを守っていても、報われないことが多いし」 「由良ちゃん…」 透は言葉を失う。 視線を上げると、由良は綺麗な眼差しで魚達を見つめていた。
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