ハルと倉木

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ひとしきりガーデンで新郎新婦との記念撮影を終えると、スタッフに促されてゲストは披露宴会場に入る。 席札の置かれたテーブルに着いたハルは、同じテーブルの女性二人に、初めましてと挨拶した。 一人は瞳子の事務所の社長で、もう一人は後輩らしかった。 すると頭上から、あれ?という声がして、ハルは顔を上げる。 「ひょっとして、谷崎さんかな?」 隣の椅子に手をかけてこちらを見ているのは、アナウンサーの倉木 友也だった。 ひえっ!とハルは身体を固くする。 片思い中の倉木に、まさかこんなところで会うとは思っていなかった。 「こ、こんにちは」 「こんにちは。谷崎さんも招待されてたんだね。有名人なのに、大丈夫なの?」 倉木は同席の二人に会釈してから腰を下ろし、至近距離でハルの顔を覗き込んでくる。 「は、はい。へっちゃらの平気です。倉木さんこそ、大丈夫なんですか?」 「俺?もちろん大丈夫だよ。新郎新婦に見とれて、誰も気づいてないしね」 「そ、そんなことは、ないですよ」 「そんなことあるんだって。見てよ、冴島さんのあのかっこよさ。同じ男から見ても惚れ惚れするよ」 ハルはチラリと視線を上げて倉木を見た。 倉木は、花で飾られたメインテーブルに座る新郎新婦を見つめて微笑んでいる。 その表情にドキッとして、ハルは慌ててまた視線を落とした。 「冴島さんは、俺の憧れの人なんだ。かっこよくて、男前で、懐が深くて。どん底にいた俺を救ってくれた恩人なんだよ」 静かにしみじみと語る倉木に、ハルは思わず目を奪われる。 「なんて、こんなに熱く語ると誤解されちゃうかな。念の為に言っておくけど、憧れであって、ラブではないからね?」 そう言って、ふふっと笑う。 ハルは恋に落ちた乙女のように、ポーッと頬を赤く染めて倉木に見とれていた。
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