幸せの女神

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幸せの女神

「亜由美、支度出来た?」 コンコンとノックのあとに、透が花嫁の控え室に顔を出す。 「透さん」 「わあ!亜由美、綺麗だね。どこかの国のお姫様みたいだよ」 「やだ、透さんたら。どこかの国じゃなくて、透さんだけの花嫁なんだけど?」 「うん、そうだね。亜由美は俺だけのプリンセスだよ。一度切りのウェディングドレスも、すごく似合ってる」 「ふふっ、ありがとう。透さんも王子様みたいにかっこいいよ」 その年の12月。 透と亜由美の結婚式は、粉雪が舞うロマンチックな日だった。 後ろに大きなリボンが流れるプリンセスラインのドレスに身を包んだ亜由美は、綺麗なデコルテとふんわりしたパフスリーブ、頭上にはティアラも輝き、おとぎ話に出てくるお姫様そのものの可愛らしさだった。 透は目を細めて、亜由美に手を差し伸べる。 「亜由美。たった一度の結婚式で、たった一人の俺にキスをしてくれる?」 亜由美はクスッと笑って透に手を重ねた。 「はい。人生でたった一度の結婚式で、私のたった一人の愛する人と誓いのキスを交わします」 「ありがとう。ありったけの愛を込めて、君にキスを贈るよ」 透も嬉しそうに笑いかけた。 すると亜由美は、ふと何かを思い出したような顔になる。 「ね、透さん」 「ん?なに?」 「私達の願い、叶いましたね」 え?と透は首を傾げる。 「俺達の、願い?」 「ほら、瞳子さんのブーケトスの」 「ああ!May the goddess of happiness smile on you」 「そう。私達、お互いにかけた言葉が同じ願いになったんですね」 「そうだね。The goddess of happiness smiled on us」 「うん!」 二人は笑顔で見つめ合う。 「さ、行こうか。俺のプリンセス」 透は亜由美に左腕を差し出す。 「はい、私の王子様」 亜由美も右手を透の腕に添えた。 もう一度微笑み合うと、二人はゆっくりと扉の向こうへ歩き出した。
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