四十九日パニック!~休みがない、宮司さんいない、お花は誰かが供えてくれた~

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 休みがない。普段あれだけ代打として当日欠勤の穴埋めのために急に出勤しても私が休みたいときは誰も代わってくれない。1ヶ月前に親の四十九日の納骨で事前希望休を出してもだ。 「子どもが…」 だからあなたの子どもが熱出したときに代わりに出たのは誰だよ?しかも何回代わったと思ってるの? 「予定が…」 だから予定を潰して穴埋めに出たのは誰だか、わかってる? 「その日は年寄りがデイサービスに行かない日で家で看る日でさ、ごめん」 この理由だけはストンとくる。介護経験者だから、私も。デイサービスは基本的に介護保険のケアマネが作った計画書通りに進められるので、急な変更は難しい、いや不可能に近い。理由付きで謝る人はたった一人だけ。 (子どもの一時預かりとか探さないの?あれだけ私はあなたの当欠フォローしたのに?) 言いたいことを堪えて、職場のグループラインにこう返した。 「下川は5月24日に39度の高熱を出します。私の占いは100%当たるので『対処』をよろしくお願いいたします。39度の熱があっても納骨には行きますので出勤不可能でございます、あしからず、以上。」 以降のグループLINEは、休まれては困る系の話は全てスルー。店長やマネージャーになんとか出勤をと言われれば無言で睨みつけた。作り笑顔で、 「そういう態度は良くないよ」 眉を八の字に寄せて困ったアピールをする店長。その耳元で私はささやいた。 「うちの店というか会社、東証PLIMEに上場してますね。SNSで話していいですか?親の納骨すら休ませてくれない、酷いって。フォロワーさんが昔からいる本垢を使えば信憑性が増しますよ。作ったばかりのアカウントだと偽情報だと疑われますけど、本垢ならあっという間に拡散されるんじゃないですか?株主は株価が下がれば烈火の如く怒りそう」 「止めてよ、そういうの。私の責任問題になるじゃない!」 「責任問題になるのが嫌なら店長穴埋め頼みます。私、旦那の転勤でそろそろここ辞めるんで。都合のいい人はもう止めます」 「私だってそこ6連勤なのに7連勤になったら倒れるって。今だって息切れしてるのに」 「倒れる前に休めばいいじゃないですか。社員の持ってる鍵がなきゃ店は開かないんだし」 「ちょ、何言ってるの?」 「簡単じゃないですか。大きな病院の救急外来に自分の車で駆け込んで領収書と診療報酬明細書を一枚貰うだけ。不要不急で救急車を使うとお金を取る自治体も出てきたから。倒れるほど息苦しいのは事実ですよね?救急外来受診を何も躊躇うことありません。もう代打出勤の便利屋止めましょうよ、二人で。後は野となれ山となれ。マネージャーがなんとかしますよ」 「下川さんってさ…ギリギリまで怒りを溜めていざ怒ると物凄く怖いタイプ?」 「5年この店にいたのに今頃気付きました?」 「うん…いつもシフト苦しいときに助けてくれるから、ごめんね…甘えてて」 「店長も過労死する前にサクッと病院に行ってください。24日、やりましょうよ。鍵が無くて店に入れない。マネージャー呼ぶまでみんな大パニックになるはず。後日談を聞いて二人で笑いませんか?」 「下川…お主も悪よのう…」 「そうこなくっちゃ、店長。いやいやこの下川、お代官さまほどでは…」 店長のマツエクした長い睫毛まで愉快そうに揺れていた。 さあ、鍵を持った人が出勤しない5月24日はどうなる?せいぜいパニクればいい、代わりを頼むだけ頼んで、自分では代打出勤引き受けない人は全員苦しめばいいのさ。
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