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 両手が小刻みに震え、喉はカラカラだった。上手く―――瞬きが出来ない。どうしたんだろう。あの人は、何故裕人(ひろと)の名前を呼んだんだろう。  傍にいた恋人、裕人の姉である千奈津(ちなつ)が私の肩に手を触れる。 「……奈緒(なお)ちゃん。大丈夫、一緒に行こう」 頷くことも、喋ることも出来ない。身体にロックでもかかったように、力が強張り震える。しかし無理矢理喉を鳴らすと、身体の硬直が解けた。お腹の奥で、何かがどんと固まる。足を一歩一歩。前へと進めた。
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