チャーシューの章

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チャーシューの章

つぎの日、少し遅くに内閣府庁舎に出勤すると、次長室の前に三人の男たちがそわそわした仕草で立っていた。わたしはそれを見てひどく落胆した。 「次長!お待ちしてました!」 「石田くん、なにごとかね」 「それはここでは。たいへん重要、かつ微妙な問題がありまして」 「まさか」 ナルトごときで重要な?微妙な?ほんとバカなの? わたしは上着を脱ぎ、椅子に腰かけた。本来ならメールを確認する時間なのだが、その三人のバカそうな…いや、深刻そうな顔に少し時間を割くことにした。 「それで、きみたちまでいったい何なのだ、須山分析官と冴島調査官」 わたしは石田のほか、ふたりの調査室員がいるのを不思議に思った。その、須山分析官がまず口を開いた。 「石田さんに頼まれてメンマの輸入に関するデータを洗ったのですが、その…」 「なんだね?どうかしたのか?」 「これは重要な案件と言えます」 「輸入量に調整が入ったのか?」 貿易輸出国が輸出量を調整することなど当たり前だ。要は価格の安定と、そして輸出国内への締め付けだ。だが小麦や石油などの第一次産品ならともかく、メンマなど輸出調整しても経済的打撃など見込めるわけがない。だいいち、メンマなど入っていなくてもラーメンにはあまり影響がない。最近のラーメンの市場動向でもそれが顕著なのだ。 「いえ、消えたのです。データごとすっぽり」 「なんだと!」 「ある日突然メンマが消えたのです。どこを探してもメンマはない。原料を輸入してそれを加工し製品にする業者も存在しません」 「ばかな!」 まったく荒唐無稽な話だ。だが捨て置けない。たかがメンマが、ひとびとの記憶だけ残し、すべて消えた?あり得ない。 「台湾にはまだ作っているところがあるだろう?それに中国だって…」 「両国に昨日問い合わせましたが、メンマって何だって言われました」 「マジかよ」 わたしはこれが日本の危機だと思いたくなかった。たかがナルトやメンマごときで日本の内政、とくに政治・経済が揺るぐことはないと信じたかった。だが…。 「それだけじゃありません。チャーシューも今朝ほど、消えました」 「何だって?意味わかんない」 いやいやいや、消えるって何なの?チャーシューだよね?そこらで作ってるよね?肉屋だって一般家庭だって作ってるよね?それこそどこでも作ってるのが消えたって、あり得ないだろ! 世界的な陰謀のはじまり…わたしはいまそう感じていた。
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