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ほうれん草と葱の章
――などと思ったのは間違いだった。
とにかく何か異変がこの日本国に起きている。それは事実だ。
「詳細を話したまえ」
とにかく情報収集と分析だ。そのために内閣情報調査室があるのだ。
「メンマとナルトですが、二つとも共通するものがあります。それは製造業者がいなくなったということと、その生産意欲が失われた、ということが消失の原因と思われます」
生産意欲の消失とはなんとも残念な話だ。作る気がなくなった、ということなのだろう。たしかに長い不況で製造業は大変だと聞く。
「ではチャーシューは?これだけ作る人間がいるのだ。生産意欲とは無縁だろう?」
「それが…チャーシューの作り方を、みな忘れたようなのです」
「バカだろ!」
あり得ないだろ。国民ぜんぶがチャーシューの作り方を忘れたとでも言うのか?
「では次長はチャーシュー…焼き豚とも言いますが、その作り方をご存じですか?」
「当たり前だろ!チャーシューは豚肉のロースやバラ肉を…えー…あれ?」
おかしい。チャーシューの作り方を思い出せない。いきなり頭からすっぽりと抜けたように、その姿や言葉、味はわかるのに、作り方だけ記憶から消えていた。
「でしょう?われわれはチャーシューの作り方を忘れたのです。全国民的に」
「いやいや、料理本にあるだろう!それに動画サイト。いくらでもうまいチャーシューの作り方なんて出てるぞ?」
「いまはありません。あらゆる情報媒体からもそれが消えました」
「そりゃわが内閣情報調査室への、いや日本国への挑戦だろ!」
だがそれは変だ。インターネット上でのそれはわかるが、あらゆる町の本屋の本棚に並んでいる料理本まで消せるか?
「落ち着いてください。事態はもっと深刻なんですから」
「どういう意味だ?」
「よく聞いてください。先ほど報告がありました。現在日本から、ほうれん草と葱が消えたそうです」
「葱?」
「長ネギ、青ネギ、そういう葱です」
「いやそれって畑や田んぼから?」
「落ち着いてください。ネギやほうれん草は田んぼでは作れません」
「うっさい!」
これはシャレにならない。なんでこんなことになった?何か未知の力が働いたとでも言うのか?
「JAXAにコンタクトを。宇宙科学研究室の沢渡に」
「やはり宇宙から何かアクセスが?」
「可能性を否定しない。それだけだ」
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