麺とスープの章

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麺とスープの章

宇宙航空研究開発機構、略称 JAXAは、日本の宇宙開発を担う最重要機構だ。もちろんNASAや国立天文台と連携した星間情報の分析も行っている。 「お忙しいところ失礼します。わたしは内閣情報調査室次長の松丸と申します。宇宙科学研究室室長の沢渡さんですね?」 初対面の相手の電話越しだと当然丁寧にならざるを得ない。警視庁のエリートとして当然だが。 「沢渡だが、あんた内諜か?」 内諜とは部外の人間のわれわれの呼び方だ。なんか失礼なやつだ。 「そうですが、少しお話を聞きたいと思い…」 「なにを悠長なことを言っているのだ!こっちはもう大変なことになっておるのだぞ!」 「はい?」 意味がのみこめなかった。が、察するに、なにか宇宙で異変が起きたのかと考えられる。 「大変なことというのは…もしかして隕石とか…いや、そうじゃなかったら宇宙人の侵略とかでしょうか?」 「なにバカなことを言っておる。頭湧いているのか?」 「失礼ですね、それ」 「それどころじゃない!もうわが機構はおしまいだ!」 「どういうことでしょうか?」 何かすごくあわてている。わたしは石田に目配せして調査するように指示した。 「どうもこうも、みな気が狂ったようになっておる!これも政府の怠慢のせいだ!」 「落ち着いてください!いったいどういう状況なのか教えてもらえませんか?」 「はあ?何を呑気な!いいかね、なくなってしまったんだよ、すべてが」 ここまで聞いても意味が分からない。感情的になり過ぎているのか、この沢渡与いう人物はかなり錯乱しているらしい。 「落ち着いて。そ、そうだ、ご家族の話をしましょう。奥さまはどういった方です?」 わたしは気を紛らわそうとそう話を振っただけだ。火に油を注ぐようなことはしていないじゃないか。 「その妻の好物がラーメンだ!いっつも調布駅前のラーメン屋に行ってタンメンと餃子を食べるのが楽しみだった。それがもうできないなどと、おまえは妻にそう言えるのかっ!」 「いえ、たしかにチャーシューやメンマはなくなりましたが、タンメンは食べられるんじゃないですか?」 「バカ者!麺とスープがなくなって、どうやってタンメンが食べられる!」 わたしは大きな間違いをした。細かな具材にばかり気を取られていた。そうだ、これは大変なことなのだ。日本からラーメンが消えたのだ!
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