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メンマの章
その夕刻、それは報告された。
「次長に取り急ぎお知らせしたいことがありまして…」
わたしは内閣情報調査室次長松丸英人。警視庁から出向のエリートだ。日夜日本国の安全のため働いている。いまわたしのデスクの前に立つこの男はやはり警視庁から出向している石田宗也主任調査官だ。
「どうした、そんなにあわてて。どこぞのテロリストが日本に潜入したのか?」
ま、そんな報告なら四六時中入っている。テロリストが日本経由で世界に散らばっていくのは世界中の諜報組織じゃ周知の事実だ。だが日本政府は黙って見ているだけだ。そんなものいちいち相手などしていられない。人手が足りない上に経費もない。日本に害を及ぼすようなやつだけ消えてもらい、あとは相手国に通報するだけだ。
「それが…あの…」
つねに意思明朗な石田ではない。いったい何があった?
「なんだね?」
「それが…メンマが、消えました」
「帰っていいぞ。まったく…疲れたなら休みたまえ」
「いえいえ、疲れてるんじゃないんです!メンマが、突然消えたんです」
「あー」
内閣情報調査室とは、国内外の重要な案件の情報を収集、分析、そして処置する、いわば諜報組織だ。それがなんでメンマなんだ?
「メンマって、ラーメンに入っているやつだろ?それがどうかしたのか?」
「だから、消えたんですよ。どこにもない。わかりますか?どこにもないんです!」
「いや、メンマがなくたって別にいいじゃないか」
メンマがどうのと言ってる場合じゃない。いま国難級の案件が重なって起きているんだ。中東の石油、民族テロの余波、戦争、そして経済侵略。みな国家レベルの侵略なのだ。それが一気に押し寄せているときに…。
「メンマがなければラーメンが成り立ちません!」
あ、忘れてた。石田は有名なラーメンオタクだった。毎日三度、いや五度はラーメンを食べていると言われているし、本人もそれを認めている。いやだからってメンマと国家の安全保障は違うだろう。ほんと、めんどくさい。
「情報分析官の須山に話してみたまえ。それと輸出入に関する調査は冴島調査官に頼め。メンマなんか今は百パー中国からの輸入だろ?そこからの供給が断たれたってことは、新たな経済封鎖の予兆かも知れんからな」
メンマ原料及び加工メンマの輸入量はおよそ三十万トン。そのうち台湾産と中国産が二分していて、国内産はそれより少ない。国内消費は変化がないだろうから、やはり中国あたりの嫌がらせなのだろうか?
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