束の間の記憶

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シュティーの言動に突っかかるメリル。  『どういう事も何も、メリルの料理はゲロ不味…』  『あたしは修行中なの!』  二人は犬猿の仲と言いつつ、戦闘時は息の合ったコンビネーションを発揮するほど、仲良しだった。  『でもラクス、本当に美味しいよ。』  『…お前がそんなに喜ぶなら、作って良かった。』  嬉しそうに笑うレーノルズに、ラクスも淡い笑みを(こぼ)していた。  『ラクス、エデンの塔を攻略して冒険者として成功したら、次は店でも開いたら? これは王国でも通用する味だと思うよ。』  『…そんなにか?さすがに店は…』  『この朴念仁にお客さんの相手が出来ると思わないわ。せめてレーノルズ、あんたが対応しなさいよ。』  『ぼ、僕…?まあ、人の相手をするのは、嫌いじゃないけど。』  『はは、面白いじゃん!ラクスが料理人で、客の相手をするのは、レーノルズ。 店開いたら、冷やかしがてら、遊びに行ってやろうぜ!』  『あら、良いわね!シュティーにしては名案じゃない!』  『おい、メリル、俺にしてはってどういう事だよ~!?』  『二人とも、話が飛躍しすぎだ。まだ店を開くなんて、一言も…』 狼狽(うろた)えるラクスの肩を、レーノルズが叩く。  『諦めな。二人も楽しそうだし。 でも、僕は良い案だと思うな。 ラクスが本気なら、僕も手伝うし。』  レーノルズに穏やかに笑われると、ラクスは弱かった。  『お前がそこまで言うなら、それもありか…。』  冒険者として成功したら、あるいは落ち着いたら、そんな夢も悪くないかと思っていた。 当時は呑気(のんき)にそう考えてた。  その後に、夢が叶う事など無いのだと、現実を思い知らされた。  「お~い、ラクス、また考え事ですか? 私ほどの者を差し置いて?」  エーテルが顔を覗かせていて、ラクスは我に返る。  「いや…。」  「それより、あなたも食べたらどうです? ほら、口を開けて。」  「え…?一人で食べられ」  「私を無視した罰ですよ。」 エーテルがじっと見つめていたので、仕方なく食べると、自分ではよく食べた味だった。    「…うん。」  「面白味のない反応ですね。仕方がないから私がリアクションしてあげます。 ん~、美味しいです…!」 エーテルは冗談でもなく、本気で美味しそうに食べている。  今、料理を作っても、何か言ってくれる者はもういないと思っていた。 だが、こうやって喜んでくれる者がいると思えば、作る甲斐もあったものだと思った。  「ラクス、なにを笑ってるんですか?」  「…いや、何でもない。」  「まったく…あなたはいつもそればかりなんですから。まあ、もう慣れましたけどね。」  エーテルとラクスは和やかな時間を過ごした。
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