10人が本棚に入れています
本棚に追加
塔に入ってすぐに魔物の集団に襲われた。
十年前には苦戦したが、今のラクスにはそれほど脅威な相手ではなかった。
「ふ…ッ!!」
ラクスの剣が閃き、魔物を次々と切り伏せていく。
一通り倒したかと思って辺りを見回した時だった。
「ラクス、キノコの魔物が向かってきます!」
目を向けた時、キノコの魔物がラクスに迫っていた。
「そいつは攻撃されると、幻覚魔法を使ってくる!だからこのまま退避して」
ラクスが言い放った時には、時既に遅く、エーテルが光の魔法を放った直後だった。
「そういうのは早く言ってください!」
魔物は魔法を受けて死ぬが、その直前に胞子を放っていた。胞子には、人間にのみ幻覚を見せる能力を持つ。
ラクスはキノコの胞子を思い切り浴びていた。
ラクスが見たのは、十年前にエデンの塔に入った時の事だった。
『うお~すっげー!』
『これが噂のエデンの塔ね。』
『シュティー、メリル、警戒心を持って。ここは熟練の冒険者でも命を落とす恐ろしい場所なんだから。』
レーノルズが言うが、両者はまだ年若く、秘めた力を持つ代わりに能力を過信する部分がまだあった。
『わかってるけどさ~、気を付けてたら大丈夫だって。』
『シュティーほど調子には乗らないけど、あたし達はパーティーを組んでいるし、ソロとは違うもの。落ち着いて行けば平気よ。』
『…そうだが、ここは未知だ。
まだ明かされてない場所もあるし、魔物がいつ現れるかもわからない。
あまりガツガツと進まない方が良い。』
『ラクスもレーノルズも慎重過ぎだって。そんな調子だと日が暮れるぞ?』
『シュティーに同感よ。こんな調子じゃ、お宝は見つけられないわよ。』
『あ、こら、二人とも、待ってったら。
…言ったそばから先に進んじゃうんだから。』
レーノルズが呆れたように息を吐いていた。
『初めてだし、こんなもんだろ。
少し探索して、二人が満足したら今回は早々に帰ろう。』
『そうだね。だけど、何となく落ち着かなくてさ。…こんな場所だからだろうけど。』
レーノルズは慎重だった。
それこそラクス以上に、少し過敏なほど。
『気持ちはわかるが…。
二人を肯定するわけではないが、お前がこんな様子では日が暮れるぞ。』
『…それもそうか。僕も心配性なのかもしれないな。』
今思えば、大人しくレーノルズの言う事を聞いて、早く戻れば良かった。
だが、全ては遅い。終わった後でしかないから。
当時、上階にいる、ある魔物に襲われ、パーティーは壊滅した。
ラクスの視界にあるのは、死んだ仲間達の幻覚。
首だけになったメリル。
下半身がどこかに消えたシュティー。
そして、
『ラクス、頼むから逃げて…!』
『嫌だ…!お前を置いて逃げるわけには…!!』
『僕の事は良いから…ラクス、どうか、僕達の分まで生き』
次の瞬間、魔物の振るった攻撃で、レーノルズの言葉はそこで途絶えた。
「あ、あああッ!!」
ラクスがひび割れた悲鳴をあげた瞬間だった。
「…クス!!ラクスったら!!聞こえてますか!?」
最初のコメントを投稿しよう!