エデンの塔

2/3
前へ
/26ページ
次へ
 塔に入ってすぐに魔物の集団に襲われた。 十年前には苦戦したが、今のラクスにはそれほど脅威な相手ではなかった。  「ふ…ッ!!」 ラクスの剣が(ひらめ)き、魔物を次々と切り伏せていく。 一通り倒したかと思って辺りを見回した時だった。  「ラクス、キノコの魔物が向かってきます!」  目を向けた時、キノコの魔物がラクスに迫っていた。  「そいつは攻撃されると、幻覚魔法を使ってくる!だからこのまま退避して」  ラクスが言い放った時には、時既に遅く、エーテルが光の魔法を放った直後だった。  「そういうのは早く言ってください!」 魔物は魔法を受けて死ぬが、その直前に胞子を放っていた。胞子には、人間にのみ幻覚を見せる能力を持つ。 ラクスはキノコの胞子を思い切り浴びていた。  ラクスが見たのは、十年前にエデンの塔に入った時の事だった。      『うお~すっげー!』  『これが噂のエデンの塔ね。』  『シュティー、メリル、警戒心を持って。ここは熟練の冒険者でも命を落とす恐ろしい場所なんだから。』  レーノルズが言うが、両者はまだ年若く、秘めた力を持つ代わりに能力を過信する部分がまだあった。  『わかってるけどさ~、気を付けてたら大丈夫だって。』  『シュティーほど調子には乗らないけど、あたし達はパーティーを組んでいるし、ソロとは違うもの。落ち着いて行けば平気よ。』  『…そうだが、ここは未知だ。 まだ明かされてない場所もあるし、魔物がいつ現れるかもわからない。 あまりガツガツと進まない方が良い。』  『ラクスもレーノルズも慎重過ぎだって。そんな調子だと日が暮れるぞ?』  『シュティーに同感よ。こんな調子じゃ、お宝は見つけられないわよ。』  『あ、こら、二人とも、待ってったら。 …言ったそばから先に進んじゃうんだから。』 レーノルズが呆れたように息を吐いていた。  『初めてだし、こんなもんだろ。 少し探索して、二人が満足したら今回は早々に帰ろう。』  『そうだね。だけど、何となく落ち着かなくてさ。…こんな場所だからだろうけど。』  レーノルズは慎重だった。 それこそラクス以上に、少し過敏なほど。    『気持ちはわかるが…。 二人を肯定するわけではないが、お前がこんな様子では日が暮れるぞ。』  『…それもそうか。僕も心配性なのかもしれないな。』  今思えば、大人しくレーノルズの言う事を聞いて、早く戻れば良かった。 だが、全ては遅い。終わった後でしかないから。  当時、上階にいる、ある魔物に襲われ、パーティーは壊滅した。  ラクスの視界にあるのは、死んだ仲間達の幻覚。 首だけになったメリル。 下半身がどこかに消えたシュティー。 そして、  『ラクス、頼むから逃げて…!』  『嫌だ…!お前を置いて逃げるわけには…!!』  『僕の事は良いから…ラクス、どうか、僕達の分まで生き』  次の瞬間、魔物の振るった攻撃で、レーノルズの言葉はそこで途絶えた。  「あ、あああッ!!」  ラクスがひび割れた悲鳴をあげた瞬間だった。  「…クス!!ラクスったら!!聞こえてますか!?」
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加