剣士と天使

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 「天使って呼ぶのも言いにくいな。 あんた、名前は?」  「私はエーテルと申します。」 エーテルは優雅に挨拶した。  「エーテル、か。…俺はラクスだ。」  「ラクス、ですね。覚えました。」 エーテルは嬉しそうにラクスを見つめて言った。  「エーテル、なんであんたは倒れてた?」  「急な、予期していない雷に打たれたんです。」  「雷?…あんたは、その…間抜(まぬ)けな天使なんだな。」 エーテルが青い瞳を見開き、頬が(かす)かに赤くなった。  「わ、私が間抜(まぬ)けですって…!? そんな事を言ったのは、あなたが初めてですッ!」 怒っているのだろうが、感情を(あらわ)にしているエーテルは可愛らしくも見えた。  「悪かった…?間抜(まぬ)けは言い過ぎた。」  「もう…ッ、その通りです!私は天使ですよ?その私を間抜(まぬ)けの言葉で片付けるなんて、酷いヒトですねっ」 エーテルはしばらくプリプリと怒っていた。  天使がこれだけ感情的なのは驚いたが、皆がそうなのか、エーテルが特別なのかはわからなかった。  そんなこんなでラクスは旅に出る事になった。 準備をして後は出るだけだが、確認の為に地図を広げる。  「ここが俺達がいる山奥だ。で、エデンの塔はここ。」  地図を覗き込んだエーテルは、道を辿(たど)るように地図を指でなぞった。  「いくつか村がありますが、エデンの塔にはこの村が比較的近いですね。名前は…」  「パサード村。」  ラクスがはっきりと言えば、エーテルが小首を(かし)げた。  「知ってる村ですか?」  「俺の生まれ故郷だ。」  「なるほど。だから出てきたのですね。 私は天空で、地上に住む多くの人々を監視…観察してきました。 ヒトは故郷を大事にする傾向があります。 あなたも故郷に寄って行くのでしょう? それくらいは構いません。 私は寛大ですし、あなたは私を手伝ってくれるわけですから。」  「いや、行かない。」 ラクスが即答すると、エーテルが眉を(ひそ)めた。  「なぜです…?」  天使と言いつつ、人間みたいな顔をして見てくるとラクスは思った。  「むしろ、どうしてあんたがそれを気にするんだ?天空に戻るんだろ。自分の事だけを考えてろ。」  ラクスはエーテルに冷めた目を向けて、言っていた。地図を閉じる。  「あ…」  「そろそろ出発しよう。」  何か言いたげだったエーテルだが、口を閉ざし、(うなず)いた。  「そうですね。」  エーテルの青い瞳は、ラクスを見透かすように見ていた気がして、居心地が悪かった。
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