6人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
過去の面影
焚き火を前に、焼いただけの魚を、エーテルは美味しそうに食べていた。
「うまいか?」
「美味しいです…!」
さっきまでエーテルは『天空の観測者である私が、地上の生き物を口にするわけには。』だの、『生の恵みに感謝して云々』と垂れていたが、一度口にしたら見事落ちた。
「天使って食べなくても平気だと言っていたが、地上の生き物を食べて良いのか?
はしたない行いとか色々言ってなかったか?」
「そ、それは…ッ!!」
むせて可哀想だったので、ラクスはエーテルの背中を擦っていた。
「冗談だ。食べたければ食べろ。片翼になって、体力が落ちてると言っていたろ。」
「ええ…翼を片方失っていつも通りじゃないんです。
天空に戻ったら、きっと創造神様が治して下さるでしょう。」
少しだけ申し訳なさそうに、エーテルは淡い笑みを溢した。
「俺から見ていると天使もヒトも、それほど変わらないように見えるが。」
「違います。創造神様は私達天使をヒトと似ている形にお作りになっただけで、天使はヒトとは別種の」
言い終わる前に、ラクスはエーテルの額を軽く小突く。
「わかったわかった。」
「あなたは何もわかっておりませんっ」
エーテルは涙目になっていたので、ラクスは赤くなった額を撫でていた。
「悪い。軽くやったつもりだったが、痛かったか…?」
「そ、そういう問題ではありません…っ」
不満げに、気に入らなそうに見つめてくるエーテルを見ていると、一瞬、昔の親友と重なって見えた。
「…私を見つめて、何です?
私に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになりましたか?土下座する気持ちにでも」
「違う。…何でもない。」
ラクスは思わず、立ち上がっていた。
久しぶりに他者と言葉を交わしているからか。
そうでなければ、エーテルと似ても似つかない親友が重なって見えるわけがない。
最初のコメントを投稿しよう!