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剣士と天使
「下界に異常は無いようですね。」
下界に異常があるかどうか、人々を監視するのが天使の仕事だった。
「エーテル、北エリアで異常が起きたようです。確認してきて頂けますか?」
「ええ、了解です。」
エーテルは笑顔で答えると、他の天使に言われた通り、北エリアに向かった。
翼を使って飛行しつつ、異常の確認を行った。
「こんなものでしょうか。」
一仕事も終わった。
天空へ帰ろうとして、辺りを見た時。
天候が荒れている事にエーテルは気づく。
「予定に無い急な天候の荒れよう…これも異常の一つで」
言った瞬間、雷が落ちた。
飛行中だったエーテルは、それを避けられなかった。
「く…ッ!」
天使としての仕事は常にイレギュラーとの戦い。時には命に関わる。
エーテルの体は地上に落下していた。
「はぁ…ッ!」
剣の鍛練をしてしていたラクスは、何千回目かもわからない剣を振った。
服の上からでもわかるたくましい筋肉質な体には汗が滲み、まっすぐに見据えた瞳は、鋭かった。
静観な顔立ち。ラクスは二十代中頃程度であるが、佇まいや雰囲気は年不相応なほど、酷く落ち着いていた。
やがて鍛練をやめたラクスは、服で顔の汗を拭う。剣を気だるげに担ぐ。
「…帰るか。」
小屋に帰ろうとした矢先だった。
ラクスは倒れた人を見つけ、眉を潜めていた。
どれくらいぶりで見かけた人だろうか。
ここは冒険者すら寄り付かないほどの山奥だと言うのに。
長い金髪、女のような顔をしているが、体格的に男か。しかし自信がない。
それよりも目に入るのは、背中から生えた白い翼だった。
この世界には人と、多様な異種族が存在するが、天使を見たのは初めてだった。
白い翼の片方はボロボロで、天使は負傷していた。
放って置いたら、じきに死んでしまうだろう。
ラクスは剣を腰の鞘に戻し、天使を担ぎ上げていた。
ラクスは他人からは冷たい風に見られるが、お人好しだった。何より、誰かが死ぬのを見たくなかった。
小屋に帰って、天使を出来る限り、治療した。
魔法があればすぐに治療出来たが、ラクスは剣士だ。
応急措置だけでは心もとなかったので、近くの町の治療師を呼び寄せた。
それでも天使の怪我を完全に治すには至らず、結局天使は一ヶ月眠り続けた。
ある日、天使は目を覚ました。
ラクスが鍛練をして小屋に戻ってきた時の事だった。
「あなたが私を助けてくれたようですね。
ありがとうございます。」
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