猪鹿ラーメン

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猪鹿ラーメン

 翔太は試食会の時に酒賀と約束したラーメンを作る為、スープを庭で煮込んでいた。すると遠くから一般的な車やバイクとは違い甲高い音のマフラー音が近付いて来る。その音はやがて翔太の家の前で止まった。音の方を覗くとバイクから降りる酒賀の姿が見えたので、翔太は迎えに出た。 「なんすか?この小さいバイクは?これ公道走っていいやつなんですか?」 「当たり前だろ。ナンバー付いてるだろ? これはホンダのNSR80って言って昔流行ったバイクで、今と違って昔は走り屋なんかも多かったし、今みたいに規制が厳しくなかったからなぁ…… 当時は2ストって言うこのタイプのエンジンがあって燃費は悪いけど、パワーは下からあるし部品点数も少ないから軽いし速い。NSR 250ってのがあって、それを小さくしたのが、このNSR50と80。俺の小さい身体にピッタリ!最高のバイクだ」 「へぇ〜  よく分からないですけど、小さくてかわいいですね」 「免許があれば乗せてやるけどな…… と思ったら、どっか広いスペースがあれば乗せてやるぞ。公道は免許がいるけど、そうでなければ免許なんか無くてもいいからな。どこか広いスペース無いか?」 「そうですね〜  この先の潰れたスーパーの駐車場がいいかな?あそこなら持ち主も知り合いだし…… ってゆうか、この辺りは皆んな知り合いですけどね」 「よしっ!なら今度そこで乗せてやる」  そう話していると、先日の試食会で嗅いだ匂いが酒賀の鼻に漂って来た。 「おっ! もうすぐ食べれそうな匂いだな?」 「えぇ、もう殆ど完成です。メンマを買い忘れましたけど、味玉と猪チャーシューは用意しました。チャーシューは出来たても柔らかくて美味しいんですけど、冷蔵庫で少し寝かせた方が味が落ち着くから、今朝作っておいたのでもう食べ頃だと思います」  そう言うと翔太はスープの入った寸胴に向かった。そこにはアウトドア用の机と椅子、どんぶりや調味料などラーメンを作るのに必要な物が並んでいた。 「外で食べるなんてのも、アウトドアみたいでいいな?」 「そうですね。ただこれ出来上がればいい匂いですけど、それまでは結構キツいのと、どうしても骨が大きいので鍋も大きくなるし、結構汁が少し垂れたりするから、ウチでラーメン作る時はいつも庭が台所になります」  見るとブロック上に先日試食会で見た寸胴、その下は焚火で火を熾していた。  寸胴から大きな猪と鹿の骨とネギの青い部分をトングで取り出し、別で用意してあった大きめの鍋の上に丸いザルを置いた。そこに寸胴から片手鍋を使い、ザルの上にスープを濾していった。こうしてザルで骨のカスと生姜をスライスした物を濾していく、濾されたスープの入った鍋を用意してあったカセットコンロの上に置き、酒と味醂を入れた。 「味は何にします?塩、味噌、醤油なんでも出来ますけど、味がよく分かるのは塩が1番分かりやすいですけど……」 「そうやって言われたら塩になるな…… じゃあ塩で」 「了解です」  そう言うと翔太は家の中に戻って、皿に載ったチャーシューと板のり、味玉と刻んだネギを持って来た。スープを煮込んでいた大きな寸胴をブロックから下ろし、そこに麺を茹でる用の鍋をセットし、沸騰した所に麺を投入した。  スープに塩を入れ、味をみた後どんぶりに胡麻油を少し入れ、そこにスープを注いだ。すると辺りにラーメンのいい香りが漂った。  タイマーの音が鳴り、翔太は麺を1本取り出し茹で加減を確認し、麺をザルで掬った。ラーメン屋の大将の様に肩を使って麺を湯切りしたら手早くどんぶりにその麺を移していった。そこに具材を載せた。 「うまっ!   これも店出せるなっ!」 「ありがとうございます。1度考えた事あるんですけど、これだけ沢山の美味しいラーメン屋があるのにそこにこのラーメンが生き残れる自信が無くって……」 「……ん〜  確かにコレって言うインパクトは無いな…… 麺がスーパーで買った麺だしな。麺を自分で作ったらどうだ?」 「なるほど〜 麺はスーパーで買って来る物って言う事しか頭に無かったですね。1度やってみようかな……」  翔太の返事を聞いて酒賀は他にも何か無いかと頭を捻った。少し考えた後、 「そう言えば、こない間たけのこ取る時に調べてたら、たけのこでもメンマが出来るってのがあったけど、知ってたか?」 「えっ、たけのこでメンマが出来るんですか?」 「そうらしい、なんでもたけのこって言えない程デカい奴がいいらしい。そう思って、生えてたたけのこ1部残しておいたんだ。そう言えばそろそろ狩りどきかもしれんな…… よしっ!これ食べたら、見に行くか」  2人はラーメンを急いで啜って、その場を片付け始めた。    
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