醗酵メンマ

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醗酵メンマ

 2人はラーメンを食べた後酒賀の家の竹藪に来た。 「動画で見たのはこれくらいのサイズだったなぁ」 「えぇっ! こんなデカいの食べれるんですか!?」  見ると酒賀の身長位のたけのこで、たけのこと呼べる大きさのものでは無かった。それを用意して来たノコギリで根本の方を切り取った。 「処理するの大変そうだからこの1本だけにするか。って言うかめちゃくちゃ重いな」 「本当ですね。ってか、普段普通のたけのこ食べてる人間にはこんな大きいのを食べていい気がしないですよ。店長も今年取ったなら分かると思いますけど、普段は頭が少し出たのを選びますからね」 「そうだな。ここに生えてた奴なんかは、地面が平らだから周りの土をどかすのに殆どの労力を使ったからなぁ。それからはなるべくあっちの崖になってる所しか取らんかった。その点これは取るのは簡単でいいわ。よしっ、2人で担いで行くか。そっちの重そうな方を頼むな」  そう言って重そうな根の方を翔太に担がせたが、身長差のせいでバランスが悪く、結局翔太が1人で担いで行った。玄関前に着いた2人は皮を剥いでいった。その後そのたけのこを持って台所に移動した。 「これ、まな板に収まらないですね?」 「そうだな、とりあえずまずは輪切りにするか」  そう言うと皮を剥いだたけのこをまな板で収まるサイズに切っていった。それを今度は縦半分に切った。それを大きな鍋に入れようとしたが長すぎて入らない事に気付き、3分の1に切り分け鍋に投入するも入り切らず、結局、相談の結果翔太の家でやる事になった。ラーメンの出汁を取るのに使っていた寸胴を使う事にしたからだった。  翔太の家に移動した2人は先程片付けたばかりの机や椅子を再度用意する羽目になった。 「こんな事だったら出しっぱにしとけば良かったな」 「そうですね。ただたけのこってこんなデカいの取ると思って無かったですからね。でも店長の家だと籾殻(もみがら)が無いですしね」 「そうだな。たけのこの時も翔太から分けてもらったもんな。あくぬきには重曹でもいいらしいけど、重曹なんかも家には無いからな」  そう言いながらスープの時の様に火を起こして、寸胴に切ったたけのこを放り込んでいった。そこにホースでたけのこが水に浸かる程度入れるつもりが、たけのこが浮いてしまい余分に水が入ってしまった。翔太は農機具のしまってある所から籾殻を持って来て鍋に入れた。 「たけのこが浮いて来ちゃいますね?」 「そう言えばなんかデカい皿を重しにしてたな」  そう言われて翔太は台所から大きな皿を持って来て、逆さにして鍋の中に入れた。するとたけのこがいい具合に沈んでくれた。 「そう言えば大量の塩がいるけどあるか?」 翔太が家から新品の塩を持って来た。 「これで足ります?」 「1キロか…… こんだけあれば大丈夫じゃね?」  そう言うと、茹で上がって火から下ろしていた寸胴の中に袋に入った塩を全てを投入した。 「これを1週間から2週間置いとくと、醗酵するらしいからそうしたら天日干しを1週間位するらしいから後頼むな」 「えぇっ! 僕がやるんですか?」 「そら〜 そうだろ。こんな重いもんバイクに乗らないからなぁ。それに醗酵とかオレ分かんないから、お母さんに相談してくれ」 「ひっでぇなぁ〜 人使い酷すぎ」 「まぁまぁそう言わずに…… 翔太君のラーメンの大事な具になるんだから、一生懸命精進してくれたまえ。出来たら美味しく頂くから」 「マジ信じらんねぇ」  ぶつぶつ言う翔太から逃げる様に酒賀はバイクに乗って帰って行った。  それから2週間が経ったある日、翔太の家に酒賀の姿があった。その目の前には干して干からびた姿のメンマがあった。前は鍋に入らない程の量だったが、水分の抜けたたけのこは5分の1程の量になっていた。 「カッリカリにひからびてるな。  おっ、切っといてくれたか」 「そうですね、母親が干す前に切った方がいいんじゃないかって」 「確かにそうだな、水に戻してからじゃないと切れないもんな。遠藤家に預けたのは正解だったな」 「よく言いますね、全部人にやらといて」 「いやいや、こっから一緒に水に戻すから」  そう言いながら、鍋にカリカリに干されたメンマの一部を入れて火にかけた。1時間程煮込んでみたがなかなか戻る気配が無い。酒賀がスマホで調べてみると、そこから数日かけて元に戻す事がわかった。 「マジか〜 エラい時間かかるんだなぁ。まぁ仕方ない、結構日持ちするらしいからまた来週の楽しみにするか」 「確かにこれだけ煮込んでもちょっと水分含んだ位ですもんね。考えてみれば、たけのこと言うよりも竹に近かったですからね。今までなら絶対取らないサイズですもん」  そうして酒賀は翌週の休みの日に再び翔太の家に行く事にした。  その日翔太の家の台所のテーブルの上には袋に詰め替えられた随分と水分を吸った白い極太メンマがあった。 「おぉっ、らしくなってきたな」 「3日目にはこんな感じになってました」 「そうか、メンマ作るのも時間と手間がかかるな。それじゃあ取り掛かるか。にんにくと鷹の爪はあるか?それと酒、みりん醤油と胡麻油」  そう言われた翔太は言われた物を用意した。  酒賀は水分をよく含んだそのたけのこを水で洗ってキッチンペーパーで水気を切った。フライパンに胡麻油を入れ火にかけた。そこにたけのこと用意した調味料を入れて炒めていった。途中1つ取って味見をした。そうするとコリコリとした歯応えでラーメン屋で食べるメンマと思うと極太のお陰で、より一層コリコリしていた。節を残しておいたので普段のメンマにピョンと節が出ている形も特徴的だった。 「おぉっメンマだ」  そう言うと出来上がったメンマを皿に移して、翔太と食べた。 「本当ですね、メンマだ。この節の部分があるから普通のと違うけど、完全にメンマですね。次からは節は取った方がいいですね」 「ん〜…… どうだろうな、見た目は確かに節が無い方がスッとしてていいけど、それじゃあただのメンマだからなぁ。もしラーメン屋をやるとしても、地元で採れたとか他との違いがあった方がいいんじゃないか?いっその事呼び方もメンマじゃなくて、メンマの様な醗酵たけのことかどうだ?」 「長いっすね。…… 呼び方はともかくとしてこれは立派なラーメンの具になりますね」 「ラーメンの具だけじゃなくて,つまみにもピッタリだ。しまったなぁ、今更だけどこれだけ日持ちするんだから1年分取っとかなきゃいかんかった」 「それ、食べる時はいいけど、作るの結構な労力ですよ」 「まぁそうだな、なら作り方をしっかりと詰めて皆んなに広めたらどうだ?ラーメン屋をやるか分からないけど、あれば値段によってはオレ買うし、売れれば皆んなも小遣いが入るから喜ぶだろ」 「それはいいかもしれないですね。この辺は地場産業もないし、竹藪の保全にもなりますからね。最近では竹藪も放置されて一部問題にもなってますからね。っと言うよりも人使いが荒いですね」 「いやいや地域貢献って言ってくれ」  そうして残っていたメンマを食べ、酒賀は乾燥したメンマを半分持って帰ろうとした。 「えぇっ! 全部人にやらせて半分持ってくんですか?」 「一緒にやったから、そりゃあ折半だろ。…… でもあれか?翔太はラーメンの研究が必要だからちょこっとだけにしとくか」  そう言って、カラカラに乾いて細くなったたけのこを一握りだけ袋に入れて持って帰った。  
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