SNS

1/1

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

SNS

 相変わらず暇な八百万屋で、酒賀は雑誌の立読みをしていた。それを見た凛が[立読みご遠慮下さい]と書かれた貼紙を指を差して言った。   「これ見えないんですか?」 「いや、これは立読みじゃなくて、商品の研究だ。中身を分からず売るのもどうかと思うんだ」 「くだらない言い訳はいいですから、ちゃんと仕事して下さい」  不貞腐れてぶつぶつ言いながらレジに向かった酒賀は暇そうに翔太に声をかけた。 「どうよ肉屋の方は?」 「お陰様で多くの部位は即日完売状態ですね」 「それは良かったな。余る部位は何処の部位だ?」 「ホルモン系が弱いですね」 「なら貰ってやるぞ」 「いいですけど、何十キロとありますけど、全部要ります?」 「そんなに要らんけど、そんだけ余ってるのか。何とかしないとな。…… ホルモンねぇ」  そこで思い出したのが、武蔵の食いっぷりだった。冷蔵庫からホルモンを出した瞬間から興奮しだして、皿に載せた瞬間ものすごい勢いで食べる武蔵の姿を見るのは飼い主の酒賀の最高の時間でもある。それを翔太に伝えたら 「ペット用ですか?ペット用って書いちゃうと、人用として売るのに抵抗感がありますけど」 「そうだな、確かにそれも一理あるな。なら、ペットにも人気って書いたらどうだ?何なら武蔵の食ってる動画でも見たら絶対ペット愛好家なら買うぞ」 「動画流すならタブレット買わなきゃいけないじゃないですか」 「それ位は稼いでるだろ」  と言ってる所に後藤さんがやって来た。 「ちょっと、肉屋いつ行っても売り切れてるじゃないの、何時頃行けば買えるんだい?」 「すみません。仕留めたらすぐ出すんですけど、人気の物はすぐ売れちゃって……」 「いつ入るか分かるといいんだけどね」  そう言って後藤さんは何も買わずに帰って行った。 「そう言えば、ウチの親にもそんな話しがありました。何度行っても売切れだって」 「確かにそれは問題だな。わざわざ行って売切れじゃあお客さんの足も遠のいちゃうな…… ならSNSでも始めるか?皆んなにも登録して貰って、品物が入った時に皆んなに知らせる。その時に何歳でオスメスの情報やおすすめの食べ方なんか載せたらいいんじゃない…… そこに武蔵の食べてる様子を載せる事も出来るな。我ながら天才だな」 「天才では無いですけどね」  そう凛が呟いた。  翔太は早速アカウント作ろうとした所で凛に叱られる。 「翔太君まで…… 店長がそんなんだから翔太君までこんな事になるんですよ! 今は仕事中!」 「すみませんでした」  そう言って翔太はうなだれた。  次の日は翔太は休みだったので、狩に行った。その日獲れたのは2歳のメス猪だった。それをすぐ解体し、冷蔵庫で寝かせた。その後、昨夜作ったSNS誘致のポスターを消費税非課税と書かれたポスターの横に貼った。そこには今までのお詫びと今後SNSで獲れた時の情報発信する事が書かれていた。  次の日八百万屋に出勤した翔太に酒賀が声をかけた。 「アカウント作ったのか?」 「えぇ作りました。昨日お店にもポスターを貼っておきました。」 「アカウント教えてくれ」  そう言って翔太から教えてもらったアカウントを登録したが、アカウント名は遠藤翔太と書かれていた。 「いやいや、遠藤翔太は遠藤翔太だけど、店名にしろよ」 「店名って、言われても店名ないですもん」 「えっ! 役所にはなんて登録した?」 「遠藤翔太」 「店名つけようぜ店名、猟師の肉屋とかどうだ?」 「猟師の肉屋……ですか 地元の人しか使わないから名前なんか無くても皆んな[遠藤さんとこの]で通ってるみたいですけどね」 「確かにそうだけど…… う〜ん、まっ、それも悪く無いのか。ただでさえ入れればすぐ売れちゃう位だし、他所から安いって聞き付けて買いに来られても困るし、ジビエの価格破壊が起きても困るからな、目立ってはいけないSNSだな…… とは言え名前位つけようぜ。じゃあ遠藤さんとこの店って店名にするか?」 「遠藤さんとこの店ですか?…… それで行きますか。じゃあアカウント名も遠藤さんとこの店にして、あっ!ポスターも作り直さないと…… 」 「そんなの上から紙貼って書き直せばいいんだよ。ちょっと斜めに貼っとけばそういうデザインだと思うもんだろ。店の前にも看板立てようぜ、そう言えば、武蔵の食いっぷり動画撮ったから見てくれよ」  そうして酒賀はスマホを取り出し、昨晩撮った武蔵の夕食動画を翔太に見せた。そこにはものすごい勢いで茹でただけのホルモンに食いつく武蔵の姿があった。 「確かにこれ見たら、飼い主は全員買いますね。その動画送って下さい」  そして翔太は公開するだけにしてあった肉の情報と武蔵の夕食動画をSNS上にあげておいた。  翔太が家に帰ると源三の車が止まっていた。源三に看板の経緯を話すと丁度いい板があるから今度持って来るよと言ってくれた。  後日源三が持って来た板は、木をそのまま縦に切って、回りを加工してない、木の形を残した立派な重みのある板だった。 「これはケヤキで、雨にも強いし看板にはおすすめだよ。ケヤキは昔から神社、仏閣にも使われてるし、清水寺の舞台の柱にも使われてるんだ」 「ありがとう叔父さん」    その板に何年も使ってない小学生の時に使っていた筆と墨汁を持ってきて、[遠藤さんとこの店]と縦に書いた。 「じゃあこれ禿げない様にして店に付けとくよ。玄関の横でいい?」  と源三の問いに翔太は頷き、源三は笑いを抑え切れない様子で看板を眺めた。  後日酒賀と翔太は遠藤さんとこの店の前に立っていた。 「翔太…… 恐ろしい程に字下手だな…… 」 「…… 僕も書いてから後悔しました……」  
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加